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(16)悩む「個人情報」の共有 仮設支援の手もっと密に…
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 いつも通り、薬を二週間分処方しようとして、伊佐秀夫医師(44)は患者の声を聞いた。「きょうから投薬、一週間分にしてくれませんか」。年明けの二日、仮設住宅での診療を再開してすぐだった。

 全半壊世帯などに認められてきた医療費の一部負担免除。老人保険、国民健康保険で続いた特例措置が昨年末、切れた。影響は薬を切り詰めるという形で現実になった。

 「受診しなくなる人も出てくるだろう。低利融資も、生活貸し付けも、自分でお金を返していく制度を利用する余裕なんて、ないんです」と伊佐医師。

 仮設住宅の期限は二年。しかし、患者に接していると、公営住宅に移る力があるのか、とすら疑問を持つという。

 伊佐医師が、神戸市西区平野町の仮設西神第一住宅に、「伊佐クリニック希望」を開設したのは昨年八月。医師会の仮設診療所募集に応じた。患者は一日平均四十五人にのぼり、高血圧、ぜん息などとともに、不眠症が目立つ。

 「しかし、僕らが見ているのは氷山の一角」と、伊佐医師は言う。医師が往診し、四人の看護婦は、安否確認を兼ねた戸別訪問を続ける。が、第一住宅で六百六十戸。砂利道を隔てた西区最大の第七住宅は千六十戸。「どうしても会えない人が残る」と看護婦の山地範子さんも口をそろえる。

 山地さんはこの冬、一人暮らしのおばあさんが『寒い、寒い』と震えているのを見つけた。「見たらエアコンが夏の冷房のまま。暖房への切り替えが分からない人も多いんです」

 第一住宅で面談できたのは七割。北風が吹く毎日に、閉じこもる人はさらに増えたという。

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 「西区仮設住宅あんない」。区役所が作製した地図には、六十七カ所の仮設住宅群が点在する。総戸数八千九百四十一戸。区役所や保健所、福祉事務所が続ける世帯調査はようやく七割を超えた。

 単身世帯=四一%▽世帯主年齢六十歳以上=六八%▽無職世帯=六八%▽交友関係なし=四一%。

 数字は、仮設の実情をかいまみせる。

 西保健所の石井みゑ子保健相談係長は「今大丈夫でも、一カ月後は分からない人がいる。自治会やグループと信頼関係が生まれつつある。支援の網の目をもう少し密にできないか」と話す。

 区役所、保健所、福祉事務所のほか、市が委嘱した自治会の「ふれあい推進員」。民生委員。婦人会。ボランティアグループ…。連携に欠かせない情報交換の問題で、石井係長は悩んでいる。

 「戸別調査の結果はプライバシーにかかわるので、外には出せない。でも『いつまでも、それでいいか』との声がある。本人の了解が得られたときはどうか。名前を伏せた高齢者マップは、つくれないだろうか」

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 仮設西神第七住宅で訪問活動を続けるボランティアグループ「阪神高齢者障害者支援ネットワーク」は、年末年始も自治会と夜回りをした。クリスマスも、正月も、顔を出した。

 現場責任者の黒田裕子さんは話した。「高齢者、障害者はどんどん残されてゆく。状況の見えない人にどうアプローチするか。支援も次の段階を考えなければ。限られたグループと人数で、どうエアポケットをなくすか、です」

1996/1/13
 

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