街灯はところどころ壊れてまだ薄暗い。でこぼこの残る道を通って、住民は集会所へ急いだ。
十二月十六日夜。神戸市東灘区の森南地区。区画整理への反発が強い同地区で、街づくりの修正案が初めて住民に示された。
当初案で目を引いた東西の十七メートル道路は、修正の過程で消えていた。「住民の方とも話を重ね、検討した案です」と市担当者。だが、質疑が始まると、次から次へと手が挙がった。
「そもそも、どうしてこの地区に区画整理がいるのか。最初に十七メートル道路を考えた人の説明がほしい」
「そうやそうや」と、拍手が沸く。市側は「新しいJR駅もできる。周辺の整備をして、素晴らしい街にしていきたい」と繰り返すが、「それなら、駅はいらない」と言葉が飛んだ。
三回に分けた説明会の参加者は約三百人。避難先の東京から駆けつけた住民もいた。「なぜこの地区に区画整理がいるのか」。住民の思いは、案を決定した三月十四日の都市計画審議会に戻っていった。
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同市の都計審は、学識経験者、市議、市職員の計二十六人で構成する。会長は規則で「都市計画の所管助役」と決まっている。市の案づくりの責任者の小川卓海助役が、諮問を受ける側の会長を務める。
三月の都計審は、市議二人が反対しただけで、原案通り了承している。反対した一人、南原富広市議は、しつこいほどのやりとりを今でも覚えている。
「計画案の中の道路や公園を省いて図面を白紙にできないのか」。当局「後で変えることはできます」。南原「それならいったん白紙に」。当局「それは無理です」
住民の強い反発で市はその後、具体的な事業内容の都市計画決定まで、住民と話し合いを重ねる姿勢に転換した。だが、三月の決定は必要だったとの姿勢は変わらない。十二月市会で小川助役は答弁している。
「一刻も早く街を立て直す信念でやった。批判もあったが、あの事態では必要だった。行政のリーダーシップだ」
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全国政令指定都市の都計審で、助役が会長を務めるのは、神戸市のほか京都、名古屋市。後は学識経験者から選出している。
昨年七月、宝塚市都計審は、議案にあった中筋JR北地区区画整理の審議を見送った。住民のアンケートで反対が多数を占め、学識経験者の会長が「こんな状態で審議はできない」と判断したためだ。
仕組み見直しについて、神戸市都市計画局は「市の都計審は、都市計画法で定められた県の都計審と違って、あくまでも内部機関」と説明する。県の審議会の前に、市の意思を諮る機関にすぎず、変える必要はないという。
だが、神戸市都計審の決定が、県の審議会で否決された例はない。
森南地区の住民説明会の後、まちづくり協議会会長の加賀幸夫さんは「都市計画の必要性について、新しい駅ができるから、という説明しかなかったのは残念だった」と漏らした。協議会事務局の大川眞平さんは「区画整理なしで街を再生できる。市は、最初の疑問に答えないまま、進めているが、後戻りさえすれば、街はできる」とも話す。
すでに土地を市に売却、転居を決めた住民もいる。後戻りは簡単ではない。話し合いは今月下旬、再び始まる。
1996/1/12