芦屋市の十二月市会。議員が答弁を求めたのは、市長ではなく助役だった。
「出身官庁に関係なく、国とのパイプ役として重要な役割を担う助役に期待している。所見はどうか」
テーマは、地方交付税の不交付団体に対する財政支援について。近畿地方建設局技術管理課長から就任して三カ月たつ西村安裕助役(46)が立った。「経験や人脈を生かし、最大限努力していきたい」
議員は、あきたらずにたたみかけた。「努力は何とでも言える。結果を持って来てもらいたい。なりふり構わずお願いします」
同市最大の課題は、住宅再建と街づくりである。区画整理と再開発事業が進む。だが、都市計画の人材に乏しい。区画整理の案づくりは、兵庫県職員が市役所に通い詰めた。
六月の被災地選挙で、北村春江市長が再選。ただちに市長は新しい助役選任へと動き出した。「都市計画に適した人を」と、中央官僚の出向を貝原知事と、面識のあった野中自治相(当時)に打診。西村助役の派遣は知事ルートで固まった。
震災後、助役は二人制になっている。六月下旬、二期八年務め、任期切れを迎えた後藤太郎助役が市長室に呼ばれた。「知事に新しい助役をお願いしています。何か希望はありますか」。短い問いかけに、「特にございません」とだけ答え、市長室を後にした。
西村助役はつくづく考えることがあるともらす。「畑違いでも、過大な期待がかかる。国とのパイプとは何か。プレッシャーを感じる」
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被災自治体が次々に受け入れた国の人材。兵庫県副知事に建設省の溜水義久・大臣官房技術審議官(54)が就任、西宮市技監に同省都市計画課の舟引敏明・建設専門官(37)が就いた。自治省の佐々木敦朗・企画室理事官(39)は、神戸市に入った。
神戸市は二十年ぶり。芦屋、西宮市は初めての受け入れである。
「自治省のほか、建設、運輸からも誘いがあった。赤字が膨らむ時期に応援してあげようという話ですからね」と笹山神戸市長。議会や組合の根回しで、市は「復旧は神戸だけではどうにもならない。国の支援を仰がねばならない。要請もある」と説明している。
税収入が落ち込む一方で、集中する復興事業。国の補助はどれも一〇〇%ではない。財政負担の先行きは、起債や交付税を握る自治省の出方にかかっている。
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十月十一日、佐々木氏は「理財局次長」の辞令を受け取った。神戸市に着任以来半年、震災復興本部のスタッフとして計画づくりに携わってきた。辞令は、財政の中枢で、ラインを握ることを意味していた。
国の予算編成大詰めの十二月中旬、佐々木次長は東京・虎ノ門の自治省に入った。交付税、財政、地方債など地方財政関連課が集中するフロアで、幹部を次々につかまえ、憶した様子の他の陳情者を尻(しり)目に、神戸の現状を話し込んだ。
個人の仕事ぶりを超えて、同市には、国の人材への複雑な思いがある。長年、生え抜きで動かしてきた自負、受け入れまで追い込まれた現状へのいらだちにも見える。「自治省は佐々木のライン入りを高く評価している」。そんな声が東京から聞こえるにつれ、複雑さは増す。
佐々木次長は自身の役割をさらりと話した。「被災地神戸の状況を目詰まりなく、的確に中央に伝えることです」
1996/1/6