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(12)「新しい関係」どう築く 権限入り組む兵庫県と政令指定都市
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 トップの発言は、食い違っているように受け取れた。

 貝原知事「四万六千三百世帯が暮らす仮設住宅は、九七年度にほぼ解消できる見通しが立った」

 笹山神戸市長「市営住宅は前倒しで全戸発注しても、完成は九八年度いっぱいかかる。九七年度中の解消は現実的には難しい」

 仮設住宅は、建築基準法で使用期限が二年以内と決まっている。期限は来年春から八月にかけてくる。

 兵庫県は見通しを、仮設住民の希望調査と、各自治体の住宅供給計画からはじき出した。供給分に、公営住宅収入基準超過者の転居に伴う空き部屋までを含めた。神戸市は、そこまでは想定していない。

 知事の考えは、年末の二十五日、仮設住宅対策会議で被災市町担当者に伝えられた。

 「古くから長屋に住んでいた人も数多い。そうした被災者には、公営住宅でも家賃は高い。移行は、工夫なしには進まない」。そんな声が市町から出たが、県は「公営空き家が最も低家賃で提供できる」と努力を求めた。

    ◆

 「山手」「浜手」と、庁舎の位置から形容される県と神戸市の確執は、震災前から指摘されてきた。

 政令指定市の神戸市は、福祉、衛生、都市計画などの権限をゆだねられ、直接、国と交渉してきた。だが、災害救助法で震災関連の国への窓口は、県に一本化される。仮設住宅も県が建設、市が維持、管理する。

 震災直後、市は「仮設募集の一部を高齢者ら災害弱者優先にする」と発表した。県が「待った」をかけ、全体が弱者優先に変わった。市は、全体を優先すると、高齢者の仮設の街ができてしまう、と考えていた。

 「あと何戸いるのか」と、最終戸数の詰めが行われていた五月、市は避難所調査をもとに八千五百戸と県に伝えた。しかし、県が国に伝えたのは五千六百戸。最終的に八千三百戸で決着した。

 「神戸市に任された分野は、震災まで県市間で詰めた話はなかった。相手の顔を浮かべながら話すのと、そうでないのとでは随分違う。緊迫した状況で、電話交渉が極端に増え、尾を引いた」と県幹部は言う。

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 九六年度予算編成を前に、神戸市は、数多くの要望を県に出した。仮設管理の十分な財政措置、福祉の街づくり支援、西市民病院再建補助など、財政危機を背景に四十三項目にのぼる。

 「市民病院は市外の県民も利用する」などと根拠を挙げる市に、県は「苦しい財政は分かるが、支援は地方財政法上も、原則、国になる」とする。ぎくしゃくは続く。

 笹山市長は「県の指示を仰ぐ立場を経験し、互いに熱くなったこともあった」と振り返りながらも、「苦労は国、市の間に立つ県も同じ。新しい関係を発展させたい」と話す。復興基金や、WHO神戸センタービルなどは共同出資で運営され、貝原知事も「復興は神戸市との共同作業」と応じる。

 だが、神戸市幹部は、市内部に渦巻く不満を代弁するように話す。「仮設でも、市は入居者の苦情に対応しなければならない。最終責任を負うところに、裁量権があってしかるべきだ。それがスムーズな政策決定システムだ」

 国、県、政令市の権限が、制度にも縛られ複雑に絡み合う。権限の見直し論議は遅れ、足並みをそろえることに、実に多くの時間と精力が費やされる。

1996/1/9
 

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