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(17)不信解消し真の合意を 市民との対話は十分なのか
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 十一日、締め切られた公述人の募集は三十人の定員をオーバーした。

 神戸市が進める神戸空港の環境影響評価に関する公聴会は、二十八日開かれる。「環境への影響は軽微」とする市の評価案に対する住民の意見陳述は「一人十分以内」と決められている。あくまで意見の表明で、市側とのやり取りはない。

 専門委員会への諮問、市長意見書の作成へ。一連の手続きで、市民の出る場は公聴会が最後となる。

 「住民との意見交換はすでに終えた」。市側がそう話す住民説明会は、昨年十一月末から四回開かれた。

 「震災で事情は全く変わった。あらためて市民全体に空港計画の是非を問うべきだ」。長田で、ポートアイランドで、六甲アイランドで、見直しを求める意見は、会場から何度も上がった。

 「震災後の市議会で、推進予算の承認をもらった。市民参加を得て作成した市復興計画でも、将来の重要な都市基盤に位置付けられている」。市が説明したのは、議会の賛成、そして復興計画を論議した審議会での合意である。

 審議会委員百人に住民代表は二十五人いる。が、大半は区民まちづくり会議やPTAなど地域団体代表で、市が無作為抽出した市民アドバイザーは三人だった。

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 市内で一斉に進む区画整理と再開発。市街地から離れた大規模な仮設住宅群。被災が集中した高齢者、障害者…。震災は過去に例のない対応を行政に求めた。「市は何をしてくれるのか」と、行政を見る目はかつてないほど厳しい。

 昨年十月、神戸市北区藤原台の仮設住宅で、笹山市長と市民のふれあいトークが開かれた。区内四十八カ所の仮設住宅のうち、四自治会代表やボランティアが参加した。開催地の仮設住宅で、対話を傍聴できたのは、ほんの数人だった。

 市は震災後、ふれあいトークの開催を増やしたという。テーマや出席者を事前に市が選ぶ形は変わっていない。会合後、仮設の主婦は「市長が来ると期待していたのに。何も話せなかった」と、ぽつりと言った。

 婦人市政懇談会。区民市政懇談会。市長が直接、話をする従来の参加システムは続く。その内容に、対象の婦人会役員でさえ「直接問いかけることができない。未消化なまま、終わっている」と不満を漏らす。

 「市民参加の形が固定化、高齢化し、制度の形骸化(けいがいか)が見られる」。神戸市企画調整局が編集した「新しい市民参加に関する調査報告書」で、こう書いたのは、震災の一年前である。

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 「地域担当職員制度」。神戸市復興計画に、新しい一つの試みが盛り込まれている。

 街づくり、福祉、教育など、直面した課題を抱える関係部局の職員がチームを組んで、地域に飛び込む。住民の声に耳を傾け、ともに論議する。

 「その先に合意形成があるはずだ。震災がもたらした課題は、とても行政だけで解決できない」と広聴課は説明する。試みは、かつてない厳しさの中で編成される九六年度予算論議のそ上にある。

 身近で、切迫した問題が自治体だけで前へ進まない。国との温度差は増し、被災地の声はなかなか届かない。足元で、行政と市民の関係があらためて問われている。復興を進め、対立の図式を解くカギはどこにあるか。答えは、懸命な模索の中にしかない。

高梨柳太郎、桃田武司、鉱隆志、加藤紀子、坂口清二郎、小山優、宮田一裕)=第7部おわり=

1996/1/14
 

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