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(14)問われた区役所の機能 都市内の分権はどう進むのか
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 「専門ではないが、まったくわからないでは済まない」。神戸市の区役所で始まった勉強会は、職員のそんな思いがきっかけだ。

 長田区役所は、十一月下旬、本庁・都市計画局の専門家を招いた。区面積の約一割で、区画整理、再開発事業が進む。勉強会には、まちづくり推進課のほか、地域福祉課、課税課の職員らも集まった。

 今月下旬、今度はまちづくり推進課の谷口時寛課長を講師に、長田福祉事務所のケースワーカーらが、区画整理の仕組みなどを学ぶ。福祉で回る彼らも、「うちの地区はどうなるの」と質問を受ける。住民の関心も変わってきた。

 「地域の情報を職員全体が把握しよう」と、谷口課長は呼びかける。

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 震災直後、神戸市長田区には八十カ所の避難所ができた。区役所庁舎もその一つ。着の身着のままで火災から逃れた住民であふれた。かろうじて残った電話は、鳴りやむことがない。「実家に電話が通じない。大丈夫か」「消防も警察も出ない。どうなっている」。避難所へ物資も搬送した。

 ふだん、区役所は住民票や年金、国民健康保険など窓口業務が主である。本庁の指示もなく、連絡も取れないまま、職員は担当外の仕事に奮闘した。

 「でも、本庁と連絡が通じ出すと、とたんに活動が鈍ってきた」。東京のシンクタンクが実施した聞き取り調査で、ある区役所職員はこう答えている。

 本庁・区役所の縦のライン。上意下達の構図。当初、独自に仕分けした救援物資も、本庁が一括して集約し出すと、すぐに対応はできない。「そんな話は、お宅の区だけや」との声も本庁から返ってきた。

 九区役所の職員は約二千人。笹山市長の就任以来、役割は少しずつ変わってきてはいた。まちづくり推進課発足は九〇年。区役所が独自編集する広報紙は九四年にできた。各福祉事務所の「あんしんすこやか窓口」は、福祉と保健の相談に、一つの窓口で対応する。

 しかし、区長裁量で使える予算は区政振興費など、年約二千万円。事業要望権はあるが、予算要望権は限られ、独自予算の主な使い道はクリーン作戦、地区の祭助成など。ほかは本庁各局から必要に応じて下りてくる。限られた権限と予算が、指示待ちの姿勢を生む。

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 震災後、福祉関係者らのヒアリング調査をした神戸大学発達科学部の二宮厚美教授(社会環境論)は「暮らしに直結し、地域性を持つ事項は、日常的に区の自治機能を高めるべきだ。そうすれば緊急事態にも対応できる」と指摘する。

 都市内分権の勧めだ。

 神戸市は、行革三カ年計画で、来年春までに区役所と福祉事務所、保健所の統合を打ち出した。多くの区で同居する三機関が組織上、一つになる。

 本庁の新屋学・区政振興課長は「区で地元要望をつかみ、本庁に力を持って発言できるようにしたい」としながらも「全市バランスもある。権限を全部区長に持っていくと非効率にもなる。今の財政状況では予算充実はとても」と言う。

 横浜市は、三機関を統合した九四年、区が自由に使える予算を三千万円から一億円にした。ボランティアの高齢者デイサービスなど、独自事業が動き始めた。

 二宮教授は言う。「権限、金、人材の強化がなくては、単なる合理化になる。政令指定市は、市独自の判断で、干渉も受けずに大胆に権限移譲できるはずだが」

1996/1/11

 

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