■規制緩和「実績を」と国は言った
「国内規制の展示場」。業界関係者は皮肉を込めてこんなふうにも呼ぶ。
神戸・六甲アイランドで兵庫県などが建設中の「ひょうご輸入住宅総合センター」。国内最大の輸入住宅展示場は、二月の本格オープンを前に、住宅再建を願う被災者が時折訪れる。
「復興には、低コストで良質な住宅が不可欠。そのためには規制を緩和し、輸入住宅を後押しする必要がある」。県は訴え続けてきた。被災者向けの新規着工十一万戸。うち数千戸は輸入住宅でと見込む。
だが、期待が広がる一方で、緩和は進まない。
完成第一号の住友不動産ホームの米国住宅。内部の建材には「JASマーク」が押され、国の認定の手間とコストを語る。米国でのパネル組み立てに使ったくぎは、輸送費を払ってわざわざ日本から輸入した。
建築基準法や消防法、電気用品取締法、出入国管理法…。メーカーの担当者は「衣食住のうち『住』は規制の聖域。撤廃されれば価格も一割は安くできる」と漏らした。
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国土庁に置かれた政府の復興本部。予算編成を控えた十二月上旬、県都市政策課の菊森秀俊副課長は、各省庁から出向した本部員と向かい合った。
建設、通産、法務、農林水産、経済企画、警察の六省庁十一人。焦点は、外国人建築労働者の入国・就労条件緩和だった。現行は、外国特有の技能を持った「棟梁(とうりょう)」はOKだが、一般の「大工」はノー。技能をどう考えるかである。国側は被災地の現状に理解を示しながらも、各省庁の立場を代弁する発言が相次いだ。
「県は被災地の雇用安定を最重要課題に掲げているが、雇用に影響しませんか」。労働分野を兼任する農水省出身者はただした。
警察庁は、身元引受人の懸念を示し、入管法を所管する法務省は、労働省の立場を支持した。
既存の住宅業界を抱え、通産省と輸入住宅問題の主導権争いをする建設省の出身者が締めくくった。
「需要やニーズがどれほどあるのか、実績を見守りたい。今の状況では現行法の枠組みで個別対応できるのではないか」
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日銀神戸支店がまとめた「復興の問題点」とするリポートは、二十九項目の規制を列挙している。
神戸港の復興、工場の新増設、マンション再建など法律上の問題だけでなく、自治体の規制もある。輸入住宅では、水道工事がそれに当たる。
神戸市は水道条例で、「住宅の水道工事は、自治体か、指定(公認)業者が行うこと」とする。「公衆衛生の向上」をうたう水道法を根拠にし、すべての住宅は指定業者が担当しなければならない。
「蛇口の先っぽまで、お上の管理下」と、輸入住宅総合センターの関係者は批判する。
県は言う。「自治体の規制もあるが、根拠は法律だ。まず国が緩和の枠組みをつくるべきではないか」
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十二月五日、関西経済連合会(川上哲郎会長)は、規制緩和に関する意見を政府に提出。被災地で先行して緩和すべき項目のトップに輸入住宅を挙げた。
政府の阪神・淡路復興委員会委員でもある川上会長は「一点突破し、それを広げる考えが必要だが、日本は画一、一律行政でやってきた。全国的なバランスが、『なぜ神戸だけ』という不満になる」とし、新しい施策を展開する上で、省庁再編が必要と指摘した。
年末、国の経済審議会、行革委員会規制緩和小委員会は、相次いで「経済分野は原則撤廃、社会分野は必要最小限」などの考えを打ち出した。
大きな流れはできながら、緩和は、省庁の各論の壁に阻まれる。輸入住宅のモデル的な実施は、地元の雇用や住宅メーカーにどう影響するのか。安全性はどうか。「まず実績を」とする国は、課題の具体的検討にも踏み出そうとはしない。
1996/1/1