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(6)救助 水害用の資機材に不備
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 秒速十メートルを超える勢いの濁流が、次々と倒木を運び去った。二隻の救命ボートは前に進めない。船外機はうなり、後退するばかりだった。

 京都府舞鶴市。台風23号で由良川が増水し、観光バスが水没した。豊岡市職員OBら三十七人が、屋根の上に取り残されていた。

 「行けるところまで進出せよ」。海上自衛隊舞鶴地方総監部の作戦室から命令が飛んだ。

 「駄目です。これ以上は無謀です」。舞鶴水中処分隊の黒川通良隊長(50)は、携帯電話で繰り返した。

 水中処分隊は本来、海上の機雷除去を主な任務とする。計十三人の部隊が、現場の下流約二キロに到着したのは、府の派遣要請から一時間十分後の午後十一時二十五分だった。ボートでのアタックを断念し、迂回(うかい)路を探したが道路は寸断されていた。夜間で、気象条件や複雑な山沿いの地形を考えると、ヘリコプターも無理だった。

 活動再開は夜明けの午前六時すぎ。急流個所では、重さ百七十キロのボートを陸揚げして担ぎ、沿道を進んだ。警察などもボートやヘリを出した。

 途中、川沿いの民家で、首まで漬かった住民を救出した。水没現場にたどり着くと、バスの乗客は、手を合わせて隊員たちを迎えた。間一髪の救出だった。

 阪神・淡路大震災後、救助機関のレベルアップが図られた。新潟県中越地震では、十年前の教訓を受けて配備されたハイテク機材と、新たに発足した組織が役立った。

 新潟県長岡市妙見町。ワゴン車ごと埋もれた土砂崩れ現場で、地震から五日ぶりに、皆川優太ちゃん(3つ)が救出された。電磁波を使い、鼓動や呼吸を探知する人命探査装置「シリウス」が、威力を発揮した。

 優太ちゃんに手を差し伸べたのは、東京消防庁の通称「ハイパーレスキュー」。高度な救助技術を持つ部隊で、神戸市消防局も来年度創設を目指している。ハイパーレスキューの面々は、全国的な広域支援態勢である「緊急消防援助隊」として駆け付けていた。

 援助隊は、台風23号被災地でも活動した。豊岡市には、大阪など四府県から百四十隊五百六十八人が向かった。逆に兵庫県からは、今夏の福井豪雨や昨年九月の十勝沖地震など、延べ五十二部隊、百八十四人が出動している。

 一方、同時多発で救助要請が相次ぐ中、混乱も生じた。

 台風23号の際、但馬の一市五町を管轄する北但消防本部(兵庫県豊岡市)への通報は、七時間で二百七十八件に上った。通常は一日でも十-十五件程度。その上、本部庁舎が浸水し、自家発電機は機能を失っていた。

 阪神・淡路のとき、神戸市への応援で救急活動に当たった土肥貢消防士長(37)は、「普段は“点”の活動。今回の台風では、震災と同じく“面”の対応の難しさをあらためて感じた」

 同消防本部の周辺では、水に覆われた道路で数十台の車が立ち往生した。救命ボートは本部と城崎分署に計三隻しかなく、ウエットスーツさえなかった。午後八時ごろ、水位は一メートル近くに達した。隊員たちは、足元が見えない中で動き回るしかなかった。

 同消防本部は、ボート四隻を予算要求するなど資機材の充実を検討しているが、来春の市町合併と絡み、「配備の実現は不透明」という。

2004/11/26
 

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