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(11)予知神話 世界で一度もない成功例
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 文部科学省にある政府地震調査委員会の事務局に、新潟県中越地震の直後、一般市民から苦情電話が入った。

 「三十年後がどうとか言う前に、目の前の地震も分からないのか」

 調査委が公表した、あるデータを踏まえたものだった。

 長岡平野西縁断層帯の「長期評価」で、三十年以内の発生確率は、最大値が2%の「やや高い」グループに属する-。発表の十日後、中越地震が起きた。

 南北約八十キロにわたるこの断層帯は、今回の震源のすぐ西に位置していた。しかし、全く動かなかった。電話の主はそのことを怒っていた。

 阪神・淡路大震災でも「なぜ予知できなかった」という批判があった。

 政府の見解はこうだ。「観測体制が進んだ東海地震だけ予知の可能性がある。その他は無理」

 駿河湾から四国沖に至る南海トラフでは、海溝型の東海、東南海、南海地震が百-百五十年周期で発生してきた。東海の部分だけ、プレート(岩盤)が百五十年間跳ねていない。「いつ起きてもおかしくない」状態で、政府は一九七八年以来、観測を強化してきた。

 予知のポイントは「プレスリップ(前兆すべり)現象」。プレートが跳ね上がる直前に、ゆっくりすべり始めるとされる現象をとらえられれば、予知ができるという理屈だ。

 だが、過去にプレスリップが確認されたことはなく、政府は「いきなり起こることもある」という。

 東海を予知できても、連動性が高い東南海や南海、日本を囲む海溝型地震では、観測設備が整っていない。

 中国では、一九七五年に起きたマグニチュード7・3の海城地震の直前、住民を避難させて被害を最小限に食い止めた。科学的な説明がつかない動物の異常行動や、井戸水が変化するなどの宏観(こうかん)現象があったためという。

 「あまりにも幸運な例だった。予知の成功例は世界に一度もない」と、国立極地研究所長の島村英紀北大教授(地震学)がいう。いつ、どこで、どれぐらい、の三要素が科学的に予測できて初めて予知といえる。

 政府は阪神・淡路後、地震調査研究推進本部を設置した。その中の地震調査委で、主な地震の発生確率を長期評価として、公表している。長岡平野西縁断層帯もその一つだった。

 プレート境界の海溝型地震と違い、直下型には周期性がないものの、ある程度の発生間隔はある。数千年から数万年。そこから次に活断層が動く確率を割り出す。確認できている約二千の活断層のうち、活発な九十八の活断層帯を評価の対象としている。

 兵庫県・山崎断層の長期評価は、三十年以内で最大5%-と昨年末に発表された。3%以上は確率が「高い」グループに入る。対して、南海地震は三十年以内40%、五十年以内なら80%。

 「確率が高い、と言われても3%では」と島村教授は首をかしげる。予知に資金と労力を費やすより、基本的な防災対策を急ぐべきだと語る。

 一方で、調査委側は「分からないことが多い地震で、分かることは明らかにすべき」との姿勢だ。

 予知に期待してはならない。長期評価も一つの警鐘にすぎない。いずれ起きる地震への「備え」を怠ることなく進めるかどうかは、行政と個人にかかっている。

2004/12/3
 

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