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(15)権限 地方の主体性、なお途上
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 「被災地はこれから雪が降る。道路が通らない中、雪下ろしもできない。どうやって…」。そこまで述べて、泉田裕彦新潟県知事が泣いた。

 十一月二十四日、参院災害対策特別委員会。住宅と生業が一体化し、高齢者も多い中山間地域の苦悩に触れ、しゃくりあげた。

 「途方に暮れる人も多い。助けていただきたい」。泉田知事は「政治の力で」「政治の問題」と繰り返した。

 中央省庁も駆け回った。復旧事業の財源確保に頭を下げ、特別措置法の整備を求めた。六大臣らと自民党幹部を訪ねた際には、台風23号被害を受けた兵庫県の井戸敏三知事も同行した。

 二十六日、国は新潟県中越地震の激甚災害指定を決めた。発生から一カ月という異例の早さだった。公共土木施設や農地の復旧に対する国の補助率が、かさ上げされることになった。

 阪神・淡路大震災のとき、兵庫県は、自力で庭などに仮設住宅を建てた人への補助を求めたが、国は応じなかった。被災者救済に直結しない国の復興支援策に限界をみた県、神戸市は、自ら借金をして総額九千億円の「基金」を設立した。利子の大半を国の交付税で補う変則的な手法で、国の用意しない事業の一部を実現させた。

 国は今回、柔軟な対応を見せている。自宅敷地内のプレハブ仮設の設置を、「避難所」扱いで認めた。コイの養殖池に加え、越冬池の補修にも補助の範囲を広げた。いずれも全国初だ。

 避難勧告・指示が出ている地域の家屋は、積雪で被害が拡大した場合、地震によるものと県が認めることを了承した。「原形復旧」の原則を緩和し、改良工事の同時実施にも応じた。

 しかし、知事の政府行脚が効を奏したわけではない。財源も権限も、国が握る構図は変わらない。中越地震を超える規模の災害で、同じ対応ができる確約もない。同時期に起きた台風23号被害で、兵庫県などは独自の支援策で被災者救済に当たっている。

 被災地の知事らが要望書を抱え、中央省庁を奔走していたころ、国と地方を通じた財政再建と地方分権推進を目指す「三位一体改革」の最終決定が目前に迫っていた。地方に税源を移譲する、国からの補助金を減らす、交付税を見直す-をセットにした改革だ。

 焦点の一つが、公共事業をめぐる補助金の扱いだった。災害復旧の議論も、否応なくその渦に巻き込まれた。

 「公共事業の効果で台風被害から助かった港や施設が多い」

 「三位一体で治水、砂防事業も自治体に移すべきとの声があるが、単独での対応は難しいのではないか」

 超党派の「災害議連」や、参院災特委で議員が発言した。災害を盾に、既得権益の死守を図る動きだった。

 地方自治体側は、公共事業の中で、災害復旧事業を別枠で考えていた。

 大規模な災害後には、その地域にとっては何十年分にも相当する資金が幅広い分野に投入される。このため災害復旧事業については、補助金削減を提案していなかった。

 一方、補助金がもたらす画一的な国の基準は嫌った。地域の実情と将来を見据え、主体的に取り組める環境を求めた。

 「平時の災害予防では、地域の特性に合ったものは地方でやらせてほしい」。十一月九日、閣僚との協議の席で、全国知事会の梶原拓会長が訴えた。

 三位一体改革は十一月二十六日、結局、焦点の大半を先送りした玉虫色の最終決定を出し、当面の幕を閉じた。

 国と地方の力学を変える。その途上に、私たちはいる。

2004/12/7
 

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