地震時の鉄道車両について、コンピューターでシミュレーションした論文がある。阪神・淡路大震災を機に、鉄道総合技術研究所(東京)がまとめた。
直線区間を高速走行中で、構造物は破壊されない-などの前提条件を付けた。軌道の揺れが横方向に周波数〇・七ヘルツ程度以上、振幅約十センチ以上で、脱線する可能性が高くなる、と分かった。
同じ前提で、周波数の高低により、脱線のタイプは三つに分かれた。相撲の四股(しこ)のように左右の車輪が交互にはねる「足上げ脱線」。車輪に急激な横圧が生じレールから飛び出す「飛び上がり脱線」。さらに、この二つの複合型があった。
これらの結果は車両を使った実験でも、ほぼ証明されている。
新潟県中越地震で脱線した上越新幹線「とき325号」は、直線区間を時速約二百キロで走行していた。論文が想定する状況と、大筋で重なっていた。
ただ、「地震波が軌道にどんな周波数で伝わったのかがまだ判明していない」と鉄道総研。現場付近で橋りょうの沈下が見つかり、これが原因となった可能性なども浮上している。
山陽新幹線の新神戸駅には、防災上、ある特殊な仕掛けがある。山側ホーム、軌道、海側ホームが、それぞれ分離されている点だ。
駅の建設に取りかかった際、諏訪山断層をまたぐ位置にあることが判明した。三つの分離構造は、地盤が動いても互いに影響を受けないようにする設計だった。
阪神・淡路で諏訪山断層は動かず、この仕掛けの有効性は試されなかった。ひときわ目立ったのは、橋脚が持つ弱点だった。新大阪-姫路間の六割を占める高架区間で、柱約七百本が損壊、実に八カ所で落橋した。
JR西日本は、橋脚を鋼板で巻くなど、高架区間の耐震化に取りかかった。対象三万二千五百本のうち、今年三月末までに二万八百本の補強を終えた。岡山駅以東では、高架下がテナントとして活用されている姫路、西明石駅などを除く95%で完了している。
上越新幹線の地震計は、その瞬間、最大加速度が八四六ガルを観測した。阪神・淡路の時の新神戸駅での五六一ガルを大きく上回ったが、落橋はなかった。構造物の耐震化を進めた成果だった。
「直下型で一〇〇〇ガルを越えるような地震がくれば、脱線は当然ともいえる」
工学院大学の曽根悟教授(交通システム工学)はそう言い切った上で、「今回の事態を受けて対策の検討は必要だが、コストや大地震発生確率との兼ね合いで『今以上の対策はしない』という結論もあり得る」と指摘する。
例えば、山陽新幹線は中程度の活動度を持つ十四の断層と交わっているが、どこが、いつ、どの程度動くかは分からない。
JR各社は中越の被害を受け、高架橋脚の耐震補強を可能な限り前倒しして進める方針を打ち出した。しかし、その先の対策は、なお白紙のままだ。
阪神・淡路の時、新幹線はまだ始発前だった。一九六四年の新幹線開業以来、営業運転中としては初の脱線となった中越地震でも、けが人一人出なかった。
偶然だったのか。橋脚の耐震性さえ高めれば、それなりに安全だと信じられるのか。確証はまだない。
2004/12/4