「この辺りの家は雪の重みに耐えられるよう、柱を太くし、基礎もしっかり造ってある。それで助かったんだ」
新潟県中越地震で被害を受けた長岡市内の山沿いにある集落。農家の男性(54)は、土壁は落ちたものの、倒壊を免れた築約三十年の自宅を少し誇らしげに見上げた。
中越地方の雪は水分を多く含む。屋根に一メートル積もると、一平方メートル当たりの荷重は約三百キロになる。柱や梁(はり)への負担を減らす工夫がいる。屋根に軽い金属板を使う家は、住宅金融公庫が二〇〇二年度に融資した新築住宅のうち、新潟県で47%、兵庫県は6%だった。
コンクリート製の基礎が、地上から高いことも特徴だ。兵庫の平均四十四センチに対し、新潟は七十センチで全国一位。地震でも、高くて頑丈な基礎の方が地盤の変化に対応できる。コンクリート造りの車庫や倉庫の上に木造の居住部分を載せた「高床式」の住宅も多く、これが基礎代わりになっていた。
それでも、倒壊した住宅があった。中越地震での全半壊は約七千七百棟(二十三日現在)に上る。死者四十人のうち九人は、土砂崩れを伴わない建物倒壊による犠牲者だ。
木造の耐震構造に詳しい建築家の田原賢さん(46)=奈良県御所市=は、構造に大きな被害を受けた住宅を調べた。すると、壁の量の少なさやバランスの悪さが目立った。柱や筋交いの接合部が、しっかり留められていない事例も見つかった。耐震性に肝心な基本が抜け落ち、阪神・淡路大震災と同じ状況だった。
田原さんは「上から力がかかる雪の鉛直荷重と、横からの地震の水平力とでは、備えが違う。雪国仕様はほとんど役立たなかった」と結論づけた。
一方、鈴木有(たもつ)・金沢工業大名誉教授(木質構造)は「本来の雪国仕様ならば、積もった雪に横から襲われるのを防ぐため、接合部をしっかり留め、壁のバランスも考えるはず。高度成長期に経済効率が優先され、中途半端になっていなかったか」と指摘する。
被災地で調査した結果からは、「軟弱な地盤が崩れ、傾いた家が多い。揺れの強さに比べ、構造上の被害で完全に倒壊した家は少ないのでは」との見方も示した。
小千谷市内に住む五十代の大工は、一つの仮説を話してくれた。
「こっちの人は雪を恐れ、柱や土台がちょっとでもシロアリに食われたり、腐ったりすると、直そうとする。それで倒れずに済んだ古い家もあるんじゃないか」と。
〇〇年十月に起きた鳥取県西部地震の被災地でも、丁寧にメンテナンスしている古い住宅が多かった。建築年代による被害の差を調べた京都大防災研究所の林康裕助教授(地震工学)によると、甚大な被害を受けた日野町では、築百年を経過した住宅の全壊率が20%程度だった。
対照的に、芦屋市では阪神・淡路の際、古いほど被害率が高く、一九五〇年以前に建てられた住宅が70%以上全壊した。
林助教授は、都市部と違い、地域に密着した大工が長い間、住宅を維持管理する文化が残っていることが一因とみる。「雪国であろうとなかろうと、老朽化は必ず訪れる。自分の家に常に関心を持ち続ける姿勢は、学ばなければならない」
2004/11/24