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(16)支援法 「使えぬ制度」 募る不信
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 台風23号で、わが家は濁流にのみ込まれ、全壊した。兵庫県洲本市物部の菊山武人さん(59)。何とか持ち出せたのは、衣装ケース五個分の荷物だけだった。

 「建て直すしかないが、数千万円かかる。なんぼ国が『支援法』と言っても…」。やり切れなさと不安がにじむ。

 阪神・淡路大震災の被災地から声を上げ、一九九八年、被災者生活再建支援法が成立した。今春の法改正で盛り込まれた「居住安定支援制度」は、台風23号や新潟県中越地震など、十件の自然災害で適用された。

 全壊世帯などに最高三百万円が支給されるが、住宅本体の建築、補修費には使えず、解体撤去費や再建ローンの利子などに限られる。世帯主が四十五歳未満で、一家の年収が計五百万円以上あると対象外。これらの点が「使えない制度」として批判を浴びてきた。

 野党三党は十一月四日、住宅本体への支給を可能にする改正案を衆院に提出した。産声を上げたばかりの制度が、早くも国会で問い直される事態となった。

 野党は「住宅の公共性」を強調し、本体支給を求めた。よりどころは、「住宅はある種の公共性を有する」と認めた、国土庁(当時)の再建支援検討委員会による最終報告書。現行制度をこの世に出した“切り札”だった。

 しかし、中越地震の四日後、旧大蔵省出身の村田吉隆防災担当相は、取材に対し「個人のことは個人で再建するのが原則。この国はそういう国」。さらに「個人財産の形成に税金を使わないのは一つの哲学」と譲らなかった。

 制度の創設をリードした内閣府も、さらなる法改正は避け、台風などに伴う浸水被害を積極的に認定する「弾力的運用」で乗り切る構えを通した。

 かみ合わぬ議論の背景には、耐震補強や地震保険などの「自助」、共済制度などの「共助」、国による「公助」をめぐるバランス論がある。

 内閣府の幹部は「支援法が万全なら耐震補強は進まず、地震保険に入る人もいなくなる」と主張する。公助としては、過不足ないという認識だ。

 野党提出の改正案は十二月三日、一時間だけの審議の末、廃案となった。

 「被災者救済の制度と国は言う。それならもっと救ってほしい。収入要件などで外れた人には、深い不信感だけが残った」。中越地震で深刻な被害を受けた小千谷市。再建支援法の相談窓口に座る職員は、疲れきっていた。

 「自営業者は仕事も失い、新たな借金はできない。高齢者の多くは資力がない。再建はもう無理、という空気が広がっている」

 動かぬ国に代わり、被災自治体は次々と独自の補完制度を打ち出した。

 今年四月の改正法施行以来、兵庫、新潟、福井県などが最高百万円の上乗せ制度をやむなく整備。年収・年齢要件を設けていないところが多い。

 昨年の宮城県連続地震で同県が全半壊世帯を対象に支給した「再建支援金」の場合、利用世帯数は国の制度の六倍近い。国の場合、全半壊の一割強しか対象とならないが、県の支援金は約七割をカバーしたためだ。兵庫県も十一月十八日、要件を緩和し、年収八百万円以下では年齢に関係なく支給を受けられるようにした。

 国、地域、そして個人。高齢化と所得格差の拡大が進む社会で、負担を互いにどう担うのか。次の災害は、答えを待ってくれるだろうか。

2004/12/8
 

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