山から切り出した大量の土を、津波で被災した跡地に送る巨大なベルトコンベヤー。総延長約3キロ。「希望のかけ橋」と名付けられたその先に、復元された「奇跡の一本松」が映える。
東日本大震災前、2万4千人だった岩手県陸前高田市の人口は現在、約2万人に減った。住民票を移さないまま市外へ移転した市民も多い。市は地盤を海抜12メートルまでかさ上げし、中心市街地を再造成する土地区画整理事業の進展を急ぐ。土砂を削った場所には、新たに住宅地をつくる。
だが、制度による「拘束」が復興を失速させる。市長の戸羽(とば)太(50)は「被災地は非常時なのに平時の手続きを求められ、時間と労力を浪費している」と憤りを隠さない。
巨大事業となるかさ上げを、同市は仮換地指定(土地の再配置位置と範囲の確定)と同時に進めたいと考えたが、制度上、指定前に着工できない。国土交通省は、施工区域の全権利者の承諾を得れば着工できるとの見解を示したが、市内の区画整理地域の権利者は計2200人に上る。所在不明者も多く、承諾を得る作業は難航を極めた。
同市は国交省に特例を求めたが、返ってきた答えは「どうしようもない」だった。しかし、2014年1月、議員立法の動きに反応したのか、同省は一転、権利者の承諾がなくても着工できるよう、仮換地指定の手続きを緩和する運用方針を示した。
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被災市町にとって「国」をめぐる記憶は苦々しい。震災直後、陸前高田市は経済産業省からガソリンの提供を受けた。駐屯していた自衛隊に市内への配給を依頼したところ、前日になって同省から「給油するには『危険物取扱者』の資格がいる」と指摘され、給油に「待った」がかかった。
また、山林を切り開いて消防署や公営住宅を建てるため、開発許可申請や都市計画決定を済ませると、林野庁から「その山には補助金が出ている。手続きを」と連絡が入った。補助額は40万円。手続きには「半年かかる」と通告された。
戸羽は「大震災などの非常事態では、一定の権限を市町村に下ろす仕組みが絶対に必要だ。それには平時から分権を進め、自治体の経験値を高めておかないといけない」と訴える。
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現場への権限移譲を求める切実な声は、阪神・淡路大震災の被災地からも上がっていた。だが、その後も分権は進まず、平時は見えにくい「官治集権」の壁が復興に立ちはだかる。
昨年11月末、神戸市内で開かれたシンポジウムで、政府の東日本大震災復興構想会議で部会長を務めた政策研究大学院大教授、飯尾潤(52)は振り返った。
「新しい政策をやろうとしたが、できなかった。事前に準備がないものを、震災直後に具体化することは難しい。逆に、阪神・淡路を機に始められた公的支援が最初から適用され、拡充されたのは進歩だった」
津波で妻を失った戸羽は、語気を強める。
「どの災害も、これだけ多くの人が犠牲になっているのに、全てが過去になっていくだけではつらい。次の災害に生かすためにも、被災地から声を上げ続けていくしかない」
=敬称略=
(森本尚樹)
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