「支援制度の全体像が分からない」
昨年8月、豪雨災害に見舞われた丹波市市島町。土砂崩れの痕跡が今も生々しい前山(さきやま)地区で、同地区自治振興会会長の大槻俊彦(67)は顔をしかめた。
大槻の自宅も大量の泥水が流れ込み、「半壊」の被害認定を受けた。現在、補修工事の真っ最中だ。
災害救助法に基づき、約55万円分が公費負担される「応急修理制度」を知り、市に連絡したが「収入要件で対象外」とされた。被災者生活再建支援法に基づく最高300万円の支援金も、半壊の場合は対象にならない。
「JAの共済は役立ったが、ほかはいつ、どんな支援があるのか…」
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災害のたびに切実な課題となる住宅の再建。阪神・淡路大震災の際、国は「私有財産への公費投入はできない」と現金給付をかたくなに拒んだ。
災害救助法の応急修理制度は当時からあったが、修理箇所は限定され、市町村が指定業者に費用を払う複雑な仕組みだ。神戸市での利用はわずか577件。主な対象とされる半壊住戸の1%だった。
「現物給付」にこだわる国に対し、被災者が声を上げ、被災者生活再建支援法が成立したのは震災から3年を経た1998年。9年後の改正で使途や収入の制限が撤廃され、全壊世帯などに最高300万円を支給する現行制度になった。
兵庫県は「共助」の仕組みも導入した。2005年に始めた県独自の住宅再建共済制度だ。年5千円の掛け金で、半壊以上の被害の場合、新築すれば最高600万円が支給される。
09年8月の県西・北部豪雨で、自宅が大規模半壊した佐用町の会社員黒田みちよ(66)は、制度の恩恵を実感している。
「この年齢で自宅再建に踏み切れたのは、国の支援金に加え、共済の600万円があったから。それがなければ公営住宅に入っていたかもしれない」
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住宅の再建を後押しすれば、国や自治体の負担は軽くなる。それは兵庫県の試算で明らかだ。
被災者が自宅を再建した場合、仮設住宅の建設・撤去費を負担しても、その後の税収が見込めるため、1戸当たりのコストは約740万円。一方、仮設住宅を経て公営住宅に35年間住んだ場合、家賃収入を差し引いても3倍以上の約2400万円に膨らむ。
県復興支援課長の亀井浩之(53)は「再建してもらえれば固定資産税が入る。大量の公営住宅の維持を考えれば、自力再建を推進する方が行政のコストは低くて済む」と話す。
ただ、再建を後押しする共済制度の加入率は9・2%。県が目指す全国展開への道は開けていない。
「被災者の住まいの確保策」を議論する内閣府の有識者グループは昨年、民間住宅を活用する「みなし仮設住宅」で家賃の現金給付も検討するよう求めた。タブー視されてきた点に踏み込んだといえるが、恒久住宅の確保まで見据えた議論はこれからだ。
「自力再建に対する支援策の上乗せと、公営住宅の供給。双方を組み合わせ、被災者に多様なルートを用意する必要がある」。座長を務める神戸大名誉教授の室崎益輝(よしてる)(70)は言う。
公的な支援制度や共済、公営住宅の提供を含め、住まい再建の全体像をどう描くのか。阪神・淡路から20年を経てもなお、国は災害大国としての新たな方向性を打ち出せていない。
=敬称略=
(磯辺康子)
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