東日本大震災の津波被害が記憶に残る中、南海トラフ巨大地震で、国内で最も高い34.4メートルの想定が示された高知県黒潮町。阪神・淡路や東日本の教訓を、どう対策に生かすのか。想定が発表されてから2年半。独自の取り組みを進める大西勝也町長(44)に聞いた。(聞き手・高田康夫)
【「住民の主体性」育みたい】
-対策の現状は。
少なくともスタートラインには立てた。住民の不安を取り除こうと、職員200人が地域に入り、避難放棄者を出さない土台をつくった。戸別避難カルテ作りなど、どれも住民との対話が重要だった。作業の膨大さにほかの自治体は手を出せていないが、その状況がもどかしい。
-課題は何か。
防災を突き詰めた先に何があるのか、まだ分からない。朝から晩まで津波の心配をしている町に住みたいだろうか。砂浜の前に巨大な防潮堤を造れという意見は出ていない。住民の心理をくみ上げていくことで、初めて分かると思う。
-対策を進める上で何が大切か。
行政が手掛ける防災が最も効果的かつ効率的だとの神話を捨てるべきだ。住民から出た計画が、行政から見て疑問がある場合でも、議論なく排除してはいけない。その目的は、住民の主体性を育み、いざというときに命を守ることだ。
-地方が疲弊し、高齢化する中、中央との関係をどう見るか。
東京への一極集中は非常に危うい。国は「地方創生」を進めているが、「地方の努力で都市に追いつきなさい」という思想でやる限り、難しい。本気で都市機能を分散させるには、首都圏の持つ利便性を意図的に抑制することが必要だ。
-阪神・淡路から20年になる。
防災を突き詰めた先に何があるのか。最も分かるのが被災地だ。20年がたち、被災者がどう感じているのか。被災者の言葉は重い。今後、防災を進めていく上で、被災者の心の奥底にあるものを引き出し、整理していく作業が欠かせない。
◇ ◇
▽おおにし・かつや 1970年、高知県黒潮町生まれ。高校卒業後、海外で洋ラン栽培などを学ぶ。阪神・淡路大震災時は土木作業員として、神戸市内のトンネルの復旧に携わる。2010年に同町長に就任し、2期目。
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