座右の銘は「近い人ほど大切に」。生きてゆく上で最も大切なのは思いやりで、極端に言えばそれさえあれば他には何もいらず、近い人ほど思いやるべきだと思っている。皆が同じようにすれば今より少しは生きやすくなると思う。
しかしこのシンプルな法則をやり抜くのは容易なことではない。
例えば職場で。最も近い人とは仕事を共にする部下や上司で、この時点で日々できているか?と思わず自分を問うてしまう。営業利益、残業時間、評定、上層部の顔色。立ちはだかるものを挙げ出せばきりがない。
物理的な距離においても同じで、例えば通勤電車の中。押し込まれる車内で押した押された、席を横取りされた。ストレスの原因はいつも近い人で、それでも相手を思いやれるか。
そしてどんな状況下でも最も近い人は家族だ。家族の中でも最も近い人はずっと妻だったが、最近それが1人増えた。昨年秋に息子が生まれたのである。これまで妻と私、2点間にのみだったのが息子が生まれたことで3支点の構図に変化し、2人への距離はどちらも最短である。授乳、離乳食、夜泣き。全てが未知で、試行錯誤で疲れは極まり、息子のためを思えば妻が遠ざかる。その逆もしかり。自(おの)ずと互いへの不満が生まれ、三角形は長さの不揃(ふぞろ)いな歪(いびつ)な形へと変わってしまう。
だからこその座右の銘だ。会社員としての仕事と執筆の両立の中で家事と育児に取り組みながら果たす。そのためには考えなければならない。これからこの「随想」の場を数回借り、最も近い2人を最大に思いやるその方法を模索してゆく。忘れゆく今を書き残すことは私にとってそのための一つの方法である。
【とりやま・まこと】1992年、宝塚市生まれ。九州大大学院修士課程修了。小説家、建築士。「あるもの」で三田文学新人賞を受賞しデビュー。「時の家」で野間文芸新人賞、芥川賞。明石市在住。






















