不器用で鈍くさく、幼い頃からあまり長(た)けたところがなかった。ただ、母はいつも「ゆかちゃんは、なんでも『気に入る』のが上手でええね」と言った。
思えば、ずっとそうだったのだ。「結花(ゆか)」というのが、この世で一番愛らしい名前だと信じていたし、買ってもらった800円のカバンは「世界一おしゃれなカバン」だと疑わなかった。自分の住むマンションほどかっこいい建物は他にないと本気で考えていたものだから、引っ越すときにはぽろぽろと涙をこぼした。けれど引っ越してしまえば、翌日には新居を「これほど見事な家はない」と真っすぐに思える。とかく自分の環境や持ち物を「気に入る」というのがいつでもめっぽう上手(うま)かったのだ。
大人になって本を出版するようになってからは、どの本もやっぱり「世界一」だと思った。先月出版したエッセー集「ドロップぽろぽろ」(講談社)が仕上がったときには、「こんな素敵(すてき)な本は世界のどこにもない」と嬉(うれ)しくて仕方がなかった。わたしがぽろぽろと涙したお話を集めた短編集だけれど、不思議なことにちっとも悲しくない。大人の方にこそ読んでほしい最高の一冊になったと思う。
ちなみに最近ぽろぽろ涙したことといえば、とある子犬と出会ったとき。「もう飼い主が決まりそうで」と犬舎で言われ、わたしは大粒の涙が止まらなかった。「どうしても家族になりたい」と心の底から気に入ってしまったのだ。
今は、その子犬がわが家のリビングを走り回っている。運よく家族として迎えることができたのだ。それをわたしは「世界一素晴らしい光景だ」と、目に、胸に、ぎゅっと焼き付けている。いつでも目の前のものが上等で十分だ。なかなかお得な特技だなと思う。
【なかまえ・ゆか】川西市出身。関西大卒。エッセイスト。会社員時代に糸井重里さんが主宰するサイト「ほぼ日」での執筆が話題に。著書に「好きよ、トウモロコシ。」「ミシンは触らないの」など。























