「早く明日になればいい、明日はもっといい仕事ができるだろう!」。芸術の権化アルベルト・ジャコメッティは明け方までカンバスに向かい、疲れ果てるまで作業に明け暮れたという。時には完成間近の作品を壊し、制作途中の作品を出展してしまうほど完成を認めない芸術家でもあったようだ。
この夏、「ジャコメッティのように」という岸谷五朗さん作・演出・出演の舞台に、彼の妻アネット役として出演した。知的でありながら純粋で好奇心あふれる彼女の生きざまは、生真面目に生きてきてしまった私にとって憧れるほど自由で羨(うらや)ましかった。しかし、役者はその生きてみたい人になれるから面白い。時代も人種もかけ離れた人物ですら、衣装、かつらを着け、セットの中で照明を浴びると、魔法にかかったように自然にその人物になってしまうのだ。
実は近年、「演じる」ことより「歌う」ことに重きを置いてきたのだが、私は俳優なのだと改めて思い知らされるほど、お客さまの前で水を得た魚のようになる自分との再会は嬉(うれ)しい驚きだった。
また、公演を通し、改めて舞台芸術全てがアートなのだと深く思い知った。舞台に立つ人間の佇(たたず)まい、発する台詞(せりふ)一つや歌も、芸術なのだと。ジャコメッティが「もう少しの勇気」と言ったように、我々(われわれ)も極限まで自分の可能性を信じ、心身を鍛え、観客に純粋なエネルギーを感じてもらえるよう、極めて自由で自然なアートでなければならないのだと確信した。素晴らしい芸術作品が何年たっても人々に感動を与え続けるように。
そう思ったら、お客さまの前に立つことが楽しくて仕方がなかった。そして今、次はどんな表現ができるだろうとワクワクしている。わたし、というアートもこの世を去るまで新鮮で未完でいたい。そう、ジャコメッティのように…。
【じゅんな・りさ】大阪府出身。俳優、歌手。宝塚歌劇団に首席で入団し、在団中にNHK連続テレビ小説「ぴあの」主演。花組トップ娘役を経て退団。テレビや舞台、映画、コンサートなどで活躍中。




















