針路21

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 「また歌えなくなった」

 2度目の緊急事態宣言が出された今年1月、小2の息子がため息交じりで報告してくれた。長い、長い休校の後、ようやく再開した学校生活。音楽の授業では、何カ月もの間、歌うことができなかった。秋ごろ、ようやく解禁となったが、再度の緊急事態宣言で再び禁止となったのだ。そして、3度目の緊急事態宣言下の現在、またもや、子どもたちの日常から楽しい時間が奪われている。

 昨年春、休校中の子どもたちが公園で遊んでいると、知らない大人に怒鳴られたり、学校に苦情の電話がかかったりした。大人のストレスの矛先が弱い者に向けられたのだ。でも子どもだって、たくさん我慢している。友だちと群れて遊ぶのは禁止、給食の時おしゃべりするのも禁止、楽しい行事はことごとく中止。突然の休校から今日まで、大人より1カ月以上長く不自由な生活を強いられてきたことを忘れないでほしい。子どもたちは頑張っているのだ。

 コロナ禍の生活は、子どもに大きな負担となっている。国立成育医療研究センターが行った調査では、小学4~6年生の15%、中学生の24%、高校生の30%に中等度以上のうつ症状がみられたという。対象者が限られているとはいえ、衝撃的な数字である。

■大人たちの知恵と行動を

 心理的負荷だけではない。母子家庭を対象に、NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」(東京)と研究者が毎月行っている調査では、小学生の子どもの体重が減ったと答えた人が、時に10%を超えた。育ち盛りの子どもの体重が減ってしまったのは、必要な栄養を十分とることができなくなっているからだ。

 回答者のうち、コロナ禍以前よりも収入が減り、昨年8月から今年2月にかけて月収12・5万円以下だったのは約半数にも上る。これだけ少ない収入では、食費を切り詰めざるを得ない。米などの主食が買えなかったことが「よくあった」「ときどきあった」は約30%、「肉や魚が買えなかった」は5割もいた。給食がない休校中、子どもは1日2食、母親は2日に1食という家庭もあった。

 困窮するひとり親世帯に対して、児童1人当たり5万円の臨時特別給付金が支給されたのは朗報だった。しかし、「ひとり親家庭だけがしんどいわけじゃない」と、批判の声も上がった。たしかに、コロナ禍で困窮しているのは、ひとり親家庭だけではない。ただ、ひとり親家庭、なかでも母子家庭は、以前から生活基盤がぜい弱だったのだ。

 ひとり親世帯は、子どものいる世帯の12・6%と少数派だが、貧困率は突出して高い。2人親世帯の10・7%に対して、ひとり親世帯は48・1%にも上る。

 ひとり親世帯の約9割を占める母子家庭では特に深刻だ。母親が働かないからではない。母親の8割は働いているが、平均就労収入は年200万円、6割近い世帯は200万円未満だ。児童扶養手当を合わせても、子どものいる世帯の平均収入の半分にも満たない。父子家庭は2人親世帯の8割強の収入があるのに、なぜ母子家庭はこれほど苦しいのか。

 シングルマザーは非正規雇用者が多いからでもあるが、正規雇用の割合は4割強と、2人親世帯の母親(3割弱)に比べると高い。それでも世帯収入が少ないのは、女性が唯一の稼ぎ手であることによる。

 日本女性の平均賃金は男性の約7割で、ジェンダー格差は主要先進国中最も大きい。非正規で働く女性の割合が高いためだが、正規雇用でも女性の方が賃金は低い。コース別採用など雇用管理の男女差、女性が主たるケアの担い手となる性別役割分業が背景にある。

 シングルマザーは、生活費を確保し子どもを養育する責任を一人で担うが、二つの責務はしばしばトレードオフの関係にある。必要な収入を得るには長時間労働が求められるが、子どもと過ごす時間が削られてしまう。子育てのために労働時間を減らせば、収入が減ってしまう。十分な収入があればケアを外注することもできるが、低収入のシングルマザーには無理な話だ。これまでは、親族や友人らの手を借りて何とか切り抜けていた人も、コロナ感染のリスクから、助けを求めることができなくなった。

 先の調査によると、自分が感染したら子どもの世話ができなくなるからと、休職・退職した母親は3割もいたという。経済的損失を考えると苦渋の選択だったと思うが、たった一人の親が感染したら誰が子どもの世話をするのかと不安になる気持ちは、痛いほど分かる。滋賀県のように、入院先で親子が同じ部屋で過ごせる支援策があったならば、違う選択をしていただろう。ぎりぎりの生活を強いられ、希望が見えないなか、絶望的になっているシングルマザーは少なくない。

 「ママが元気になれば、子どもたちも幸せに」

 「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」の標語だ。その通りだと思う。追い詰められる母親を見て一番悲しい思いをするのは、子どもなのだ。これ以上、子どもたちがつらい思いをしなくてすむように、大人たちの知恵と行動が求められている。

(なおの・あきこ=京都大人文科学研究所准教授・歴史社会学)

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