あの衝撃は忘れられない。兵庫県立明石公園で、口に持っていこうとしたパンが一瞬で消えた。奪ったのはトビだ。聞けば、過去にはけがした人もいるという。園内で何かを食べるのは日常的な風景で、連休中は飲食が楽しめるイベントもある。対策はどうすればいいのだろうか。(森 信弘)
3月のよく晴れた日。昼食用に買ったパンを食べようと、明石公園に行き、石に座って袋からパンを出した。一口食べたかどうか。目の前で持っていたパンが後ろから近づいてきたトビに奪われた。一瞬何が起こったか分からず、ぼうぜんとした。見上げると、トビが何羽も旋回していた。
きっとほかにも被害は多いはず。5月に入って、県園芸・公園協会の明石公園管理課に尋ねた。すると、今春「子どもが興味本位でパンを掲げたところ奪われて泣いた」「食べ物を取ったトビが女性の口に当たった」などの事例があったと分かった。
トビは鋭い爪を持つ猛禽(もうきん)類で急降下してくる。昨春には、年配の男性が食べ物を取られて、手から出血したことがあったという。
公園側はイベントの際に園内放送をしたり、主催者に放送を依頼したりして注意を呼びかけている。パンくずをやっている人がいるという報告があるといい「スタッフが巡回して見つけたら、注意しているのだが…」と苦慮する。
日本野鳥の会ひょうご幹事の長尾高明さん(67)は「トビはものすごく目がよく、死んだ生きものを探して食べる」としつつ「餌やりで、人間の食べ物を奪うことを覚えてしまったのだろう。餌付けに近い状態だ」と指摘する。
県立人と自然の博物館(三田市)の太田菜央研究員(34)は「餌やりをやめることのほか、食べ物を捨てないことも大事だ」とする。その上で「屋外で食べる場合は、後ろに壁などがある場所を選ぶか、目隠しにもなる傘を差すのも有効だ」と助言している。