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「イナズマに向かって一つになっていくんやという一体感は、他には絶対に負けない」。地元愛を語る西川貴教=東京都内(撮影・佐々木彰尚)
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「イナズマに向かって一つになっていくんやという一体感は、他には絶対に負けない」。地元愛を語る西川貴教=東京都内(撮影・佐々木彰尚)
「直接関係のない、知らん喫茶店に『イナズマセット』ができていたり、スーパーで『イナズマセール』をしていたり。それがめちゃくちゃうれしい」という西川貴教=東京都内
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「直接関係のない、知らん喫茶店に『イナズマセット』ができていたり、スーパーで『イナズマセール』をしていたり。それがめちゃくちゃうれしい」という西川貴教=東京都内
「より地域に根差した活動をするため、実行委員会の組織改編にも着手した」と明かす西川貴教=東京都内
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「より地域に根差した活動をするため、実行委員会の組織改編にも着手した」と明かす西川貴教=東京都内
コロナ禍前の2019年9月に開催されたイナズマロック フェス=滋賀県草津市((C)イナズマロック フェス実行委員会)
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コロナ禍前の2019年9月に開催されたイナズマロック フェス=滋賀県草津市((C)イナズマロック フェス実行委員会)

 歌手の西川貴教の主催で、有観客では3年ぶりに9月17~19日に滋賀県草津市で開かれる「イナズマロック フェス」。関西の夏の風物詩として定着し、地元への経済効果は2009年からの累計で30億円超とも言われる。だが、西川は「僕がずっといる必要はない」と語る。その真意とは?

【初代・滋賀ふるさと観光大使】

 -まずはイナズマロック フェスを始めた経緯から。

 「滋賀県の(08年の)広報誌で、当時の嘉田由紀子知事と対談したんです。『何でもおっしゃってください』って言ってくださったので、地元にいるおいっ子やめいっ子が不自由に感じていることなど、ストレートに、広範囲にお話をさせていただきました」

 「滋賀県には観光大使の制度がなかったんですが、対談がきっかけで、僕が委嘱されることになりました。でも、名ばかりの大使では意味がない。地域に還元できることは何かと考えました。観光などで滋賀県を訪れる人が減っているという思いがあったので、まずは来ていただくきっかけづくりをしようと」

【おかんに感謝する日】

 -なぜ、その方法がフェスだったんでしょうか。

 「実は本当の起源というのは別にあって。観光大使の委嘱状をいただく頃に、たまたまおかんが病気をしたんです。僕の活動している姿を直接見てもらえる機会が少なくなってしまった。じゃあ、おかんの近くで仕事を増やしたら(地元に)帰れるやないかと。面倒もみれるやんと」

 「9月19日は僕の誕生日。(出産で)おかんが一番頑張った日やから、おかんに感謝する日として、その日に開催しているんです。台風シーズンやから、中止や中断をしたこともある。『こんな時期にやるからあかんのや』『日にち変えろ』って言われることはめちゃくちゃあります」

 「でも、母親の命日は(17年)8月29日。イナズマを直前まで待っててくれたんです。僕は今でもその時期には、おかんが帰ってくるんじゃないかって思うくらい。だから、イベントの規模が大きくなっても場所は変えられないし、日にちも変えられないんです」

【自治体任せにしない】

 -イナズマ立ち上げに当たり、地元の反応は?

 「新しいことや変革に抵抗を感じる方も多いです。また滋賀のど真ん中に湖があって、湖北、湖西、湖東、湖南とエリアが分かれていて、文化も全く違うんですよね。当初は湖東地域のイベントという印象が強かったので、他からは『そっちの方でやってはるイベントやんね』みたいに見られて。だからなかなか(県全体で)一つになっていこうという機運にはならなかったですね」

 「でも、とにかく地域の皆さんと向き合い、声をきちんと受け止めようと。自治体だけに任せないようにしました。毎年、住民説明会も開いて。取り組みに共感してくださる方々をいかに増やせるかがポイントでした」

 「イベント本体だけでなく、関連イベントをできるだけ多くの自治体にも派生させていく。長浜市とか彦根市とか近隣の自治体にまで、少しずつ草の根運動のように。わが事として感じてもらえるように。だから、イナズマは、年間を通じて県内でいろんな催し物をやっていくための、一つの旗艦店みたいなものですね」

【手も足も出なかった】

 -主催者として、多くのご苦労や喜びがあったと思います。

 「(新型コロナウイルス禍の)ここ3年くらいは、ちょっと想定していない苦労でした。基本的には日常生活がしっかりと担保された上でしか、文化とかスポーツには意識を向けてもらえないんですよね。感染症は、人の不安や恐怖心をあおる。僕たちとしては、そういう人たちに、音楽などを通して少しでもストレス発散してもらいたいという気持ちでいるんですけど」

 「阪神・淡路大震災とか東日本大震災では動くことは良かった。動き方を考えようということはあったかと思うんですが。でも今回は『とにかく動くな』。もう、手も足も出なかった」

 「これまでと違ったしんどさでしたね。でも、地域の皆さんは一言も悪く言わなかったんです。『やめてまえ』って言われたっておかしくないと思っていたんですけど、会う方、会う方が『やめんとってや』『乗り越えて絶対、また次やろな』って言ってくれはった。これが僕にとっては一番うれしかったし、やってきて良かったなって」

【首長行脚】

 -コロナ禍を経て、今年は何が変わりますか。

 「この間、ただイベントを中止するだけでなく、これまでやりたくてもできなかったことをやろうと、県内ほとんどの自治体の首長さんとお会いしました。『一部地域のためじゃなくて、滋賀県全体のためになることをやりたい。さらに福井や京都、三重、奈良、岐阜…。こういった地域にも良い影響を派生させていく取り組みをしたい。だから、地域の皆さんからリクエストをください』と話をしました。『そんなふうに考えてくれているとは思わなかった』みたいに言われる方も多くて。そこから、お話しする機会も増えて、いろんなことがすごく回るようになってきた。すごく大きな収穫でした」

【垣根のないイベント】

 -その上で、今年の見どころは?

 「これまで以上に、もっといろんなジャンルのアーティストが一堂に会するイベントにしようと。僕自身がどこの事務所にも所属せず、長く独立系でやってきたので、たくさんの方とつながりを持てた。その強みを生かさないなんて、もったいないんじゃないかなって」

 「ロックフェス常連のアーティストに、モーニング娘。'22や、ももクロちゃん(ももいろクローバーZ)、アイドルマスターSideM(アイドル育成ゲーム)。さらに、大御所の布袋寅泰さん。お笑い芸人さんも出る。本当に垣根のないイベントで、日本中のどこを探しても、このラインアップの音楽フェスって、見たことのないものになっていると思います」

 「(メインの雷神ステージだけでなく、若手アーティストの登竜門となっている)中間規模の風神ステージも、(定員数千人~2万人ほどの)アリーナクラスでも十分に集客できるようなラインアップです。無料で提供するんですが、正直、もったいないくらい(笑)」

【僕がずっといる必要はない】

 -今後の展望について。以前から、西川さんの丸抱えでは駄目だとおっしゃっています。

 「来年がちょうど15周年になるんですね。例えば、出演に関しても、僕がいないと成り立たないようなイベントにはしたくない。日本を代表する音楽イベントに成長してくれるならば、別に僕がずっといる必要はないと思っているんです」

 「何かあった時には僕が矢面に立つし、責任ある状態で関わり続ける。でも、出演し続けることは目的ではない。むしろ、イベントがさらに充実するんであれば、僕が出演しているゾーンはトリも含めて、次のブレイクスルー(躍進)アーティストにぜひともチャンスとして差し出したい。今回はコロナ禍で不確実なスケジュールの中、出演者に無理してもらうのは申し訳ないと思い、僕の稼働をちょっと多くしているんです。でも、本来であれば、がつんと減らしたいぐらいでした」

【成功の鍵】

 -地方発、アーティスト主催のフェスは全国に多数あります。成功の鍵は何でしょうか。

 「僕も毎年トライアンドエラーの繰り返しなので、偉そうなことを言えた義理じゃないんですが…。最近、アーティスト主導型のフェスはどんどん増えていると思うんですが、ラインアップが似通ったものになりがち。そこをどう独自性を出すか」

 「イベントの開催前後を包んだストーリーもすごく必要な気がします。突発的に『フェスやりたいから楽しもうや』だと、地域の皆さんとの軋轢も生まれやすいと思います」

【ノウハウを日本中に】

 -コロナ禍もあり、運営が難しい事例も。

 「少子高齢化もあるし、地域に愛情を持ってイベントで盛り上げたいという方がいない地域もある。だから(イナズマ開催で培った)僕のいろんなノウハウを、パッケージにして使えないか。まちづくりの中のイベントみたいなものを、われわれが引き取ってやっていくとか、考えられたらと思っています」

 「滋賀県で今、僕がやっている活動で、日本中のいろんな課題(解決)をお手伝いできるんじゃないか。滋賀県で起きていることを、ひいては日本のいろんなところで起きている物事につなげていけたらいいなと思っています」

(聞き手・藤森恵一郎)

【にしかわ・たかのり】1970年滋賀県生まれ。96年、「T.M.Revolution」としてデビューし、「HOT LIMIT」「WHITE BREATH」などのヒット曲を連発する。近年はアニメ主題歌を多く担当し、ファン層を拡大。俳優やテレビ番組のMCも務めるなど、第一線で活躍を続ける。

■企画協力【Festival Life(フェスティバルライフ)】津田昌太朗さんが編集長を務める、日本最大級の音楽フェス情報サイト。全国で開催される400以上のフェスリストのほか、国内外のフェスに関するニュース、インタビュー、コラム、来場者スナップ、リポートなどを配信する。

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