事故の惨状が生々しい東京電力福島第1原発。原発事故が突きつけた課題は重くのしかかる=2016年6月
事故の惨状が生々しい東京電力福島第1原発。原発事故が突きつけた課題は重くのしかかる=2016年6月

 国際金融小説の書き手、黒木亮が新境地を開いたのが、「鉄のあけぼの」(2012年)「法服の王国」(13年)、そして本作の「ザ・原発所長」(15年)だ。精力的な取材と緻密な筆は東京電力福島第1原子力発電所事故時の所長、吉田昌郎(1955~2013年)の生涯に迫った。発電所内外の緊迫した模様に焦点を当てた作品は多数あるが、本作は吉田という原発技術者の志や情熱、使命感を浮き彫りにしたところが出色だ。決してスーパーヒーローとせず、「原子力ムラと東京電力の論理の中で忠実に生き、その問題点と矛盾を一身に背負って逝った、1人のサラリーマンの姿」を描いた。