将来展望などを語る川崎重工業の橋本康彦社長=神戸市中央区東川崎町1(撮影・斎藤雅志)
将来展望などを語る川崎重工業の橋本康彦社長=神戸市中央区東川崎町1(撮影・斎藤雅志)

 川崎重工業(神戸市中央区)の橋本康彦社長が、22日までに神戸新聞社のインタビューに応じた。海上自衛隊の潜水艦修理契約に絡む裏金問題などを受けた組織改革について、「自由にものが言える企業文化」にするため、管理職の登用基準を変えたと言明。一方、防衛事業の売上高は、国の防衛費増額を背景に「2030年に5千億~7千億円」との見通しから上振れする可能性があるとした。大阪・関西万博で紹介した未来のモビリティーについては、実用化へ「挑戦を続ける」と強調した。(石川 翠)

■組織風土改革

 -裏金問題や船舶用エンジンの燃費データ改ざんなどを受けた改革の現状は。

 「データの書き換えができないようデジタル化し、カメラで記録を残すようにした。お金のやりとりでは、コーポレートカードでの支払いのみにし、領収書を出して会食費を請求することは原則禁止にした」

 「一番大事なのは、上司や顧客に『おかしい』と言える企業文化にしていくこと。管理職の評価基準を変えた。これまでは実力があり、『俺についてこい』というタイプが管理職に上がっていた。でも、ホームランバッターがいいコーチになれるかというと、そうではない。人の話を聞けたり、行き詰まっている様子に気付けたりする素養のある人が上がるようにした」

 -新たに見えてきた組織上の課題は。

 「本音で話せるようになってくると、管理職になりたくない人が増える可能性がある。女性の登用も少ない。管理職の業務を複数人でシェアできるよう、ケアをしていかないといけない。家事や育児に参加する男性も増えており、長時間勤務や負担の偏りの問題を解決したい。そうすれば会社も成長できるし、ものが言いやすい文化にもなる」

■防衛事業

 -防衛事業への影響は。

 「今のところは出ていないが、今も(防衛省の)調査が続いているので、まだ分からない。ただ、過去にあったことも含めてきちっと清算し、何かあったら全部報告してうみを出す」

 -国の防衛費の増額を受け、防衛事業の目標値の上方修正はあるのか。

 「2030年の売上高7千億円はほぼいけるだろう。具体的には言えないが案件は広がっており、それが固まれば7千億円以上になる可能性はある」

 -防衛装備品の輸出の可能性は。

 「(日本の最新鋭護衛艦『もがみ型』をベースにした共同開発が見込まれる)オーストラリア海軍の次期フリゲート艦では、エンジンを担当することになる。製品を単体で売るわけではなく、実際の運用まで含めるので、政府と協力して進めていきたい」

■万博の成果

 -万博に出展した4本脚の未来のモビリティー「CORLEO(コルレオ)」の製品化を決めた。

 「政府関係者や各国の企業から『いつになったら、あれをつくってくれるんだ』と聞かれた。『一緒に取り組みたい』『出資したい』との声も多かった。それだけ多くのみなさんに『乗りたい』と思ってもらった。乗馬のように初心者でも乗れて、スキルがあると岩場でも上手に乗り回せるような、わくわく感のあるものを提案したい」

 -「ALICE SYSTEM(アリスシステム)」という新たな公共交通システムも出展した。

 「アリスでは、投薬を続けている人や乗り換えが困難な人でも、家の前でキャビンに乗れば行きたいところに行ける。高齢化社会を見据えて提案するソリューションの一つだ。こちらは行政関係者や政治家からの評判が良かった」

 -万博で得た意義は。

 「われわれの将来見せたい姿の一端をお見せできた。非常に大きな期待を寄せられ、メンバーもエネルギーが上がってきた。でも一発でうまくいくことはない。どうにか挑戦を続けていけば技術が進化し、新しいものが生まれてくる」

■水素事業

 -今年は川崎市の扇島エリアで、世界最大級の貯蔵タンクを備えた液化水素基地の建設を始めるなど、水素プロジェクトが進んだ。

 「水素を安くするには大量に使わないといけない。いま液化天然ガス(LNG)のインフラ案件がどんどんきているが、『将来は水素を使う』という思想がある案件を大事にしている。われわれは従来のガスタービンやエンジンの燃料に水素を混焼させる形にした。LNGを大量に使いつつ、5%、10%でも水素を混焼させる。そういうインフラが日本中にたくさんできると、扇島どころではない量の水素を使うことになる」

 -世界的に見ると、水素への期待がやや下火になっている。

 「投機対象として水素を見ていた人たちは減ってきたと思う。短期的にもうかるわけではない、と。ただ、トヨタ自動車さんもそうだが、水素社会を実現しようとする人たちのスタンスは変わっていない」