チーズデザートを開発した片山和子さん(右)と商品企画などを担うマーケティング部の岡村裕太さん=神戸市西区見津が丘6、六甲バター神戸工場
チーズデザートを開発した片山和子さん(右)と商品企画などを担うマーケティング部の岡村裕太さん=神戸市西区見津が丘6、六甲バター神戸工場

 はじまりは、一人の社員の諦めきれない思いだった-。チーズブランド・QBBを手がける六甲バター(神戸市中央区)で「チーズデザート」シリーズが好調だ。累計出荷数が今年6月末、2億個を突破した。低糖質ながら本格スイーツのような味わいを追求し、海外でもアジア圏を中心に売れている。ベビーチーズに次ぐ同社の看板商品が生まれた経緯をたどった。

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 開発者の片山和子さん(45)が振り返る。きっかけは、学生時代に同社が販売していた「QBBベークドチーズケーキ」だった。チーズが濃く、とろけるような口溶け。「今まで食べてきたチーズケーキと全然違う。ダントツにおいしい」と衝撃を受けたという。

 製法を学びたい一心で採用試験を受けた。最終面接では、自作のチーズケーキを持参して熱意を伝えたほどだった。

 2003年に入社。念願だったチーズケーキの開発を任された。クリームチーズにバニラビーンズを入れた「ニューヨークチーズケーキ」を07年に商品化するなど、打ち込んだ。

 ところが、この年、製造機械の老朽化などを理由にデザート事業からの撤退が決まった。落ち込んだ。

 工場長が言葉をかけてくれた。「やり続けるためには、売れる商品をつくらないといけない。何かできることを継続してみたら」。背中を押された。

 業務の合間を縫って、プロセスチーズなど「6Pチーズ」用の機械を使って試作を始めた。スイーツの味をチーズの形で手軽に食べられることを目指した。

 やわらかさと口溶けの良さを追求したが、やわらかさを重視するとアルミ包装時に中身がはみ出してしまった。理想の質感と製造適性の両立に苦心した。安定した生産の難しさから製造現場で反対の声も上がったが、何度も頼み込んだ。

 約1年半の試行錯誤の末、09年9月に第1弾の「バニラ」と「ラムレーズン」の販売にこぎ着けた。スーパーのバイヤーらの反応は良かった。変化が少ないチーズ売り場に新鮮さが出るとの理由で、全国での販売につながった。初年度、計画比の3倍を売り上げた。「甘いチーズはうまくいかないという社内ジンクス」を破った。

 反響を受け、種類を増やした。売り場の季節感を演出しようと、半年ごとのシーズン商品の展開を始めた。12年春に出した「瀬戸内レモン」は、半年間で想定した販売量が3カ月で売れた。同社マーケティング部の岡村裕太さん(36)は「営業が要らない商品。担当者に食べてもらうだけでお店に置いてもらえた」と振り返る。

 これまでに販売した商品はリニューアル版も含めて約30種類に及ぶ。ブルーベリーやマンゴーなどのフルーツに加え、チョコやショートケーキもある。クリームチーズと相性の良い素材を選別。香料に頼りすぎず、果肉やピューレで食感の変化をつけ、微量の洋酒を使って後味の余韻を残す。「食べ始めから最後まで楽しめる複雑な味わい」にこだわっている。

 海外販売は18年からで、台湾や韓国、ベトナムなど11カ国で取り扱いがある。甘いチーズの珍しさに加え、栄養価のあるデザートとして受け入れられているという。輸送コストを削減するためベトナムで工場建設を進めており、各国に合った味や価格帯の商品の開発も検討する。

 近年の売り場は、競合商品がひしめく。岡村さんは市場の盛り上がりを好機と捉え、「味で他社に負けない。見せ方や発信方法を磨いて、スイーツ好きに届けたい」と話す。

 たった一人で始まった開発は4人の専門チームになった。年間2億パッケージ以上を売るベビーチーズに次ぐ商品となり、片山さんは「作りたい味は、まだまだたくさんある。技術を生かした新商品も出したい。入社のきっかけになったベークドチーズケーキのようなものもできたらいい」という。先駆けの意欲は尽きない。(谷口夏乃)

 ◇原則毎月第2、4火曜日に掲載します。

【六甲バター】1948(昭和23)年に平和油脂工業として設立。54年、現社名に変更。58年から「Q・B・B」ブランドでチーズを生産、販売する。東証プライム上場。2025年12月期の連結売上高432億9300万円、純利益14億8500万円。神戸市西区と長野県に製造工場を持つ。82年、レアチーズケーキを開発してデザート事業スタート。88年にベークドチーズケーキを発売。07年撤退。09年秋、チーズデザートシリーズ誕生。