2016年の傾聴講座で被爆体験を語る石橋恒さん=尼崎市西長洲町3
2016年の傾聴講座で被爆体験を語る石橋恒さん=尼崎市西長洲町3

 心は限界を超えていた。鬱(うつ)を抱え、自責や悲観、孤独感にさいなまれる。母は末期がんで入院し、父は要介護。尼崎市の特別養護老人ホームで働き始めた2000年ごろ、粟野真造(65)は二重三重の苦しみに耐えられず、100歳の女性を介助中に泣き崩れてしまった。

 重度の認知症で、食事も入浴も排せつも介助が必要だった。その女性が普段は動かない手で、倒れ込んだ粟野の頭や背中を優しくなでた。粟野は嗚咽(おえつ)した。