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池から顔を出すかっぱ人形=福崎町西田原、辻川山公園
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池から顔を出すかっぱ人形=福崎町西田原、辻川山公園
「雪女」の人形=福崎町西田原
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「雪女」の人形=福崎町西田原
香川雅信さん
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香川雅信さん

 多彩な妖怪の名称は、実は俳句で広まった-。ちょっと意外な仮説を、兵庫県立歴史博物館(姫路市)の学芸課長、香川雅信さん(51)が提唱している。17~18世紀の俳句集、怪談集を丹念にひもとき、当時の俳人ネットワークを通じてその種類が激増していく“妖怪バブル”期の実相を論文にまとめた。題して「鬼魅(きみ)の名は」。(井上太郎)

 香川さんは2006年、日本で初めて妖怪に関する論文で博士号を取得した「妖怪博士」。香川さんによると、近世以前の妖怪の種類は「鬼」か「てんぐ」、あるいはキツネやタヌキなどの獣が化けたという解釈に限られ、さまざまな怪奇現象に個別の名称が与えられることはなかった。

 今回の論文では、その状況が17世紀に一変し、要因は俳句であると指摘する。

 かげぼしや みこし入道 山の月(1642年「鷹筑波(たかつくば)」)

 河童(カハラウ)が ちからおとしや 厚氷(81年「俳諧雑巾」)

 鷹筑波にはほかに「雪女」、松尾芭蕉の師・北村季吟の「山之井」(48年)にも「かまいたち」など、この時代の句集、怪談集には鬼、てんぐ以外の妖怪の名前が次々と登場する。

 大坂夏の陣で豊臣家が滅び、戦乱の世が終わった時代。社会が安定し、人々の心に巣くった不安が解消されるにつれ、「それまでは吉凶の意味合いでささやかれてきた怪奇現象が、次第に『ただ不思議なだけで無害なもの』に映り、個別の名前が与えられていった」(香川さん)。こうした「怪異の日常化」で新たに登場した妖怪の名前が俳句で広まる、というわけだ。

 「古今百物語評判」(86年)では、ろくろ首▽姥(うば)が火▽油盗人(ぬすっと)▽犬神-など、妖怪名のバリエーションが一層豊かに。百物語評判は北村季吟の高弟で、京都の俳諧の世界でよく知られる存在だった山岡元隣の遺稿を基に刊行された。

 では、なぜ妖怪が俳句の題材として好まれたのか。香川さんは「芭蕉が現れた17世紀末からは芸術性の追求が主流になるが、俳諧の本質はもともと『滑稽』にあるから」だと指摘する。

 幾年も まだふり袖か 雪女(51年「崑山集(こんざんしゅう)」)

 この時代に最もよく詠まれた妖怪の一つが「雪女」。「雪」は「雪月花」と並び称されるほど和歌では重要な題材だが、「女」と付けるだけで途端に怪しい存在に映るので、好んで使われたのだという。

 地方文人が多数輩出された18世紀には、俳句の文芸としての発達と怪談集の活発な編さんが相まって、妖怪の世界にも「古生物学でいう『カンブリア爆発』が起きた」(香川さん)。

 ちなみに芭蕉が、

 渾沌(ヌペツポウ) 翠に乗て 気に遊ぶ

 と詠んだ句は、ぬぺっぽう(のっぺらぼう)の最古の記述とみられる。与謝蕪村もお化け好きで、かっぱをはじめ、怪しげな題材の句をいくつも詠んでいるのだとか。

 香川さんは「知的好奇心の対象となった妖怪は後に絵画や玩具の題材として消費されだす。日本人の妖怪観の変遷をたどる上で、『芭蕉以前の俳諧ネットワーク』は大きな分岐点の一つといえる」と話す。

 論文は昨年5月、日本民俗学会の機関誌に掲載された。

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