姫路

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ホテルクレール日笠の前で談笑する山中敬子常務(右から2人目)と姫路信用金庫の山田真由美さん(同3人目)ら=姫路市十二所前町
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ホテルクレール日笠の前で談笑する山中敬子常務(右から2人目)と姫路信用金庫の山田真由美さん(同3人目)ら=姫路市十二所前町
帽田泰輔社長(左奥)の隣に同席し、他行の営業担当者と向き合う松村洋志さん=姫路市網干区新在家
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帽田泰輔社長(左奥)の隣に同席し、他行の営業担当者と向き合う松村洋志さん=姫路市網干区新在家
工場内を点検する帽田泰輔社長(右)と松村洋志さん(中央)ら=姫路市網干区浜田
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工場内を点検する帽田泰輔社長(右)と松村洋志さん(中央)ら=姫路市網干区浜田
姫路信用金庫本店で「ともにプロジェクト」の支援内容を話し合う三宅智章専務理事(左)ら=姫路市十二所前町
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姫路信用金庫本店で「ともにプロジェクト」の支援内容を話し合う三宅智章専務理事(左)ら=姫路市十二所前町

 この10年、血液を増やして血の巡りを良くしようとしてきた。体のことではなく、安倍晋三元首相の主導で始まったアベノミクスの話。経済の世界では、お金が「血液」、金融機関は血液を地域の隅々へ送る「心臓」に例えられる。超低金利の世の中になり、大小さまざまな心臓の調子がいいとは言いがたいものの、地域金融のそれは中小零細企業を支え、地元を元気にすることこそ「本懐」だ。地銀や信金の現場では「かくありたい」と願う原点に立ち返り、企業や経営者と向き合う動きが活発になっている。(段 貴則)

 7月上旬、兵庫県の播磨灘に臨むプラントメーカー、ハマダ(姫路市)の工場を訪ねた。帽田泰輔社長らが、定例の安全点検をしている。そろいのヘルメットをかぶり、安全服に身を包んだ松村洋志さん(31)の姿もあった。肩書は「経理部 課長」。工場内の整理整頓の状況に目を配りながら歩く姿に違和感はないが、生え抜き社員ではない。兵庫の地銀、みなと銀行(神戸市)からの出向だ。

 「銀行を2年間も離れたら、浦島太郎になってしまわないか」。松村さんは出向前、不安を感じていた。みなと銀は2018年春、入行5~10年の若手を取引先へ出向させる制度を導入。若いうちに外部企業で働き、柔軟な発想を身に付け、経営者の息づかいを知る行員を育てる狙いだった。

 金融機関が、取引先へ行員を派遣することは多い。銀行員を描いたドラマ「半沢直樹」でも、半沢の妻が「出向が怖くて銀行員できるか!」と夫を鼓舞するせりふがあるほどだ。ただ、みなと銀の制度導入時、原則2年と期間を区切り、若手を出向させる試みは業界でも珍しかったという。

 松村さんは19年4月、ハマダへ。その直後、気持ちに火をつけてくれたのは、当時の頭取、服部博明現会長だった。松村さんら出向組に「私も若いときに出向し、貴重な経験を銀行員として生かしてきた」と説いた。その上で「次世代を担う銀行員として活躍してほしい」とハッパを掛けた。

 松村さんは現在、出向3年目。出向の受け入れと「異例の1年延長」を望んだのは、ハマダの帽田社長だった。

 同社が取引する金融機関は11ある。各行の営業担当者と定期的に面談する帽田社長は「提案される金利や商品の内容は、どこも横並び。話を聞くだけでは、どこの銀行か分からないぐらい。だが、みなと銀の出向提案は、他行にはない内容だと感じた」という。

 企業の合併・買収(M&A)など、事業の多角化を進めてきたハマダ。帽田社長は経理部長も兼ね、グループ企業の経営まで見る必要があった。「最大の課題は人材の確保。人がいなければ何もできない」。中小企業にとって、収益を稼ぐ現場部門と違い、総務や経理の部門に人を雇い、育てることまで手が回りにくい。「銀行には人材がいる。(地域経済や地元企業のために)生かさないのはもったいない」と指摘する。

 松村さんは出向直後から取締役会にも同席し、帽田社長のそばでM&Aなど経営の重要案件に携わってきた。他行の営業担当者との面談では“顧客目線”で相手を見て、かつての自分自身の姿と重ね合わせる。「社長が面談で提案や話を聞き、身を乗り出す機会が少ない。私自身も法人営業ではあれもこれもと提案していたが、取引先や経営者の関心をいかにつかんでおくか、その重要性がよく分かる」とかみしめる。

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 世界文化遺産・国宝姫路城に近い老舗の宿「ホテルクレール日笠」(姫路市)。財務担当の山中敬子常務のもとに週に1度、姫路信用金庫本店営業部の山田真由美さんが顔を出す。取引先と担当者としての業務上のやりとりにとどまらず、ときには姉妹のように話が弾む。

 山中常務は「金融機関はお金を貸すのが仕事で、堅い印象がある」としつつ、山田さんには違った印象を持つ。山田さんは、クレール日笠の商品を口コミで広げるなど、融資のような本業に限らず、細かな気配りをしてくれるという。

 クレール日笠は、姫信の「ともにプロジェクト」の対象企業。販路開拓などの相談を、直接の営業担当だけでなく、姫信全体でサポートする仕組みだ。同プロジェクトでクレール日笠を受け持った本店経営企画室の鶴田真子さんも、かつての営業担当。気心の知れた職員たちが支援にあたり、山田さんは「山中さんに本音で語ってもらえる関係だと思っています」と笑う。

 プロジェクトの事務局は事業支援部が担う。発足は10年前。姫信が創業100年となり、新たに立ち上げた。地域に根差す信金職員は日々、取引先を回り、経営者の人柄に加え、仕入れ先や販路の情報、潜在的な技術力など数値化できないデータや印象を肌で感じ取る。三宅智章専務理事は「本来、信金が得意とし、売りにすべき分野。100年続いた信金の原点回帰として、本業のど真ん中に位置付けた」と振り返る。

 今春にはプロジェクト名を「ともに」に改称。姫信各店の営業担当者たちは、日々の取引先訪問で得た「気付き」を所定のシートに書き込む。経営者とのやりとりなどから「支援の種」を見つけ、ともに育てるためだ。毎週10件ほど、シートが本店に寄せられ、担当者を決めてすぐに支援に動き始める。内部でも、貸し出しなど収益に直結する業務だけでなく、シート提出なども評価対象に加えた。取引先とのコミュニケーションを促し、相続支援や融資ニーズの掘り起こしに役立てている。

 ただ、クレール日笠のように取引先との信頼関係は一朝一夕で結べない。

 姫信は6月上旬、取引先450社を対象にした景況調査に合わせ、事業継続についても聞いた。「常日頃から頼りにしている相談先」(複数回答可)を問うと、トップは「税理士・公認会計士」の38・9%、「金融機関」は34・9%で2位だった。三宅専務理事は「取引先から見れば、金融機関は融資という形でしかつながっていないと思われ、弱みを見せてはいけない存在になっていないか」と受け止めた。

 地元飲食店や町工場にとって、身近な信金は事業継続を支える“最後の砦”だが、コロナ禍で経営に行き詰まる店や、後継者難で廃業がよぎる会社もある。取引先の変調にいち早く対処しなければ、金融機関としても対応策の選択肢が狭まる。地域経済が活力を失えば、営業エリアが限られる信金の持続可能性も揺らぐ。

 「常日頃から、経営者と腹を割って話せる関係づくりが必要。相談相手として存在感を高めることが、信金自身の生き残り戦略にもなる」。三宅専務理事は力を込める。

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【金融機関の経営環境】アベノミクスの柱の一つ、日本銀行による大規模な金融緩和は、大量のお金を世の中に流し、持続的な物価の下落「デフレ」からの脱却を目指した。超低金利が続くことになり、金融機関は、集めた預金を企業などへ貸し出して得られる「利ざや」が縮小。人口減少で資金需要が細る中、融資先を求めて金利を引き下げる動きも重なり、従来型の経営モデルのあり方が問われている。

【信用金庫と地方銀行】兵庫県内に本店を置く信金は11、地銀は但馬銀とみなと銀の2行がある。信金は、相互扶助を目的とした協同組織の非営利法人で、地域の中小企業や住民らが会員となり、出資している。一方、銀行は株式会社組織の営利法人。業務範囲にも違いがある。制限のない銀行に対し、信金も預金に関する制限はないが、融資は原則として会員向けとなっている。

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