■先の見通し立たず今は我慢 居酒屋オーナー・新井良江さん(64)=赤穂市
「赤穂市を元気にしたい」と2014年、食の催しで腕を振るう「おかん部」を女性仲間で結成しました。「御崎マルシェ」や「おくとう市」などの開催に携わり、「おかん食堂」を出店。19年6月からは居酒屋食堂「煉瓦(れんが)屋R」(同市加里屋)も営んでいます。
そのオープン半年後、新型コロナウイルス禍に見舞われました。時短営業や酒類の提供停止を繰り返し、今夏の第5波では約1カ月半、休業しました。協力金なしでは生活できません。
感染対策に取り組む認証店として、県の許可を得るのも大変です。コールセンターに何十回電話してもつながらず、申請は10月に入ってから。パソコンに慣れていても手間がかかりました。
営業時間帯も県の要請で頻繁に変わりました。「今は我慢しなきゃ」と思いますが、稼ぎ時の年末や歓送迎会シーズンに向けた見通しはいまだ立っていません。感染収束までにあと何年かかるのでしょうか。第6波が来ない状態は想像できません。
物価の上昇も気掛かりです。天候不順で野菜が値上がりし、サラダ油もマヨネーズも価格が上昇。輸入牛肉の高騰につられ、国産牛肉も高くなっています。電気代など公共料金や税金が上がることへの不安も大きい。
「おかん食堂」も出店できないままでいます。おくとう市は中止が続き、御崎マルシェもコロナ後では昨年秋に一度開いただけ。再開を望む声に応えられていません。
感染対応に明け暮れていますが、お客さんとの交流はやはり楽しく、店を開いて良かったとは思っています。コロナ下での事業展開へ、県の補助を得て店のホームページを作り、トイレも改装します。コロナ対策は必要ですが、若い世代に負担を先送りしたくないとも思います。(聞き手・坂本 勝)
■買い物に困らぬ仕組み必要 神河町上小田区長・岸本●明さん(66)=神河町
神河町の上小田地区でこの春から区長を務めています。77世帯、人口177人の集落ですが、高齢化率は46%。駅とスーパーがある寺前地区までは12キロもあり、車で20分かかります。
住民は4年前まで、寺前駅前の民間スーパーで食材を買っていました。それが経営難で閉店。1年間、地域にスーパーがない状態が続きました。駅前の住民はもちろん、上小田の高齢者も困りました。
車を運転できる人は遠くのスーパーに出掛けることができますが、足腰が弱って運転できない人、免許を返納した人は生鮮食品を買いに行けない。そこで町と住民が話し合い、寺前地区の11集落、約1300世帯から1万円ずつ出資してもらい、補助金も活用して1年後にスーパーを開店しました。それが「まちの灯(あか)り」です。
ただ、上小田の住民には寺前駅前に行くだけでも苦労する方がいる。私も両親がいた頃は車を運転してスーパーまで送迎していましたが、高齢化が進むと車を運転できる家族がいない世帯も出てきます。そうなると、町が運営に協力するコミュニティーバスを利用するわけですが、使い勝手がいいとは言えない。便数が少なく、朝9時に上小田発で駅前まで行くと、帰りは駅前発が正午前になります。
私もかつてJAに勤めていたので、スーパーもバスも採算が取れないと民間事業者が進出しにくい事情は分かります。政治に望むのは、過疎地域でも住民が買い物に困らないような仕組みの構築です。スーパーがあっても、気軽に行けなければ買い物はままなりません。
スーパーの維持ももちろんですが、足が不自由でバスに乗ることも難しい高齢者が増えた今、買い物の送迎を担う人や事業者にも何らかの補助や支援があってもいいのではと思います。(聞き手・吉本晃司)
※●は「高」の異体字「梯子高」