都会の騒がしさを離れ、のどかな風景に囲まれながらゆったりと働く－。バカンスと仕事を両立する新しい働き方が、ハーブを使った町おこしに取り組む兵庫県姫路市北部の夢前地域で提案されている。何かと忙しい現代人にとってストレスは増すばかり。「私も、仕事の余暇に癒やしを得たい」。ストレス軽減のヒントを求めて、１０月にあった体験ツアーに同行してみた。（森下陽介）

■「ハーバルワーケーション」体験

　１０月下旬、ＪＲ姫路駅に九州や関東などから女性５人が集まった。いずれもデスクワーク中心の仕事を持つ若い世代。２泊３日の日程で、ハーブを活用した「ハーバルワーケーション」を体験するモニターツアーの参加者だ。

　ツアーは、コンサルタント会社「さとゆめ」（東京都）がプランを作成。同社は長野県池田町で、ハーブを用いて心身の健康や生産性向上につなげる観光事業を進めた実績がある。

　今回、５人は姫路観光などを楽しみながら自身の仕事もこなす。睡眠時は腕時計型の測定器を着用し、睡眠の質などを測定。ツアー前後の健康状態を比較し、ツアーの効果を検証する。

　駅に集合した後、まずは姫路観光の目玉である世界文化遺産・国宝姫路城へ。大天守からの眺望を堪能した。続いて、各自のオフィス兼宿泊先となる姫路市夢前町の旅館夢乃井へと移動。部屋に入り、机やコンセントの位置、電波状況など仕事環境をチェックした。

■窓の外には田園風景、ランチは農家レストラン

　客室の窓からは、濃い緑の山々や遠くまで続く田園風景が広がる。すぐそばを流れる夢前川は、日の光がキラキラと反射してまぶしい。５人は、都会のオフィス街とは異なる景色に癒やされながら、早速、パソコンを立ち上げ、仕事に集中し始めた。

　２日目は、夢前地域の最北部にあたる旧山之内小学校の校庭を訪れた。芝生の上にシートを敷き、自律神経を整える効果があるというヨガを体験。地元特産のハーブを使ったハーブティーを飲み、体の芯から温まっていた。

　近くの農家レストランで地元野菜をふんだんに使った昼食を取った後、ハーブを使ったスプレー作りに取り組んだ。ペパーミントやラベンダー、ヒノキなど１０種類を組み合わせてオリジナルの香りを調合した。５人はツアー中、スプレーを仕事の前や睡眠時に使用し、気持ちの切り替えに活用していた。

　友人の勧めで参加したフリーライターの女性（３２）＝福岡県＝は「自然の中でのヨガは初めて。お茶から漂うハーブの香りでヒーリング効果も抜群」と満足そう。気に入ったハーブティーをお土産に購入していた。

■「ヨガでリラックスしすぎて…」

　最終日は、姫路を代表する古刹（こさつ）・書写山円教寺（同市書写）での座禅体験。作法を教わった５人は足を組み、半目で少し先の畳を見つめる。自分の呼吸の数を数えるが、空調の音や隣の人の息づかい、外から響く観光客の声が気になる。そのたびに数を数え直して精神を統一し、ゆったりと心を落ち着かせていた。

　ツアーの締めくくりに、姫路駅前のシェアオフィス「いいオフィス姫路ｂｙ神姫バス」で３日間を振り返った。「ヨガでリラックスしすぎて、仕事モードになれなかった」「部屋は静かで働きやすい」など率直な感想が相次いだ。

　長野県庁から大手通信会社へ出向中の公務員の女性（２６）＝東京都＝は、県が力を入れているリゾートテレワークの勉強も兼ねて参加した。「温泉でリラックスし、仕事も集中できた。ヨガや座禅で感覚を刺激され、眠りも深くなった」とツアーの効果を実感していた。

■企業向けも予定、町の活性化へ効果も分析

　さとゆめは１１月下旬から１２月上旬にかけて、追加のモニターツアーを実施する。効果の分析を進め、姫路市内で展開するワーケーションプランなどに活用するという。

　今回のツアーは、３年前から続く北部地域の活性化事業の一環。参加者には、睡眠の質や睡眠時間、日中の気分などの項目でアンケートを行っており、測定器の数値の変化と併せて専門の医師が効果を分析する。

　企業向けのツアーも実施予定で、姫路市は「チームビルディングから社員個人の利用まで幅広いワーケーションの活用方法が考えられる」としている。

　来年には、分析結果や姫路市の取り組みを紹介するセミナーを大阪で開催する予定。