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播陽時計を抱える永浜恵悟さん=姫路市元町
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播陽時計を抱える永浜恵悟さん=姫路市元町
播陽時計のオリジナル(左)とレプリカ(右)が並ぶ永浜時計店の店内=姫路市元町
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播陽時計のオリジナル(左)とレプリカ(右)が並ぶ永浜時計店の店内=姫路市元町
文字盤を外すと、精巧な機械が現れる=姫路市元町
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文字盤を外すと、精巧な機械が現れる=姫路市元町
振り子の裏側。ローマ字で会社名や「大日本帝国」などと記されている=姫路市元町
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振り子の裏側。ローマ字で会社名や「大日本帝国」などと記されている=姫路市元町

 毎時0分に「ボーン、ボーン」と温かな音色を響かせる古時計がある。国産西洋時計の先駆けとして、明治20年代の数年間だけ兵庫県の姫路で製造された「播陽時計」だ。現存数は極めて少ないが、今も変わらず時を刻む姿を姫路の街中などで眺められる。製造会社設立者の子孫で、時計職人として播陽時計のメンテナンスも手がける永浜恵悟さん(54)に、その歴史や特徴を聞いた。

■「手作りならではの温かみ」

 恵悟さんは、姫路市元町にある「永浜時計店」の5代目。父修さん(78)は現役を退いたが、県が「ひょうごの匠(たくみ)」に認定した腕利きの職人で、播陽時計についても詳しかった。

 修さんの調べでは、明治初期、長短針時計、通称「ボンボン時計」が輸入されるようになると、国産を求める機運も高まった。政府は、1873(明治6)年開催のオーストリア・ウィーン万博に技師を派遣し、製造技術を学ばせた。この技師が帰国後、旧姫路藩士の就労支援所で教えた記録があるという。

 政府は廃藩置県で職を失った士族救済のため、農商工業への転職を推進。時計製造は当時の最先端技術だったようだ。姫路市史にも、旧姫路藩の刀剣・銃砲の鍛冶職が75(同8)年ごろから時計の工作機具作りに挑み、7年かけて時計の製造に成功した、とある。協力した旧藩士の中に、恵悟さんの祖先・児島源太郎もいた。郷土史家の大西文雄さんの論文(「歴史と神戸」1992年10月号)によると、この時につくられた会社が、1888(明治21)年に設立された「播陽時計会社」の前身とみられる。

 同社は外国人技師を招いて飾東郡八代村(現姫路市八代本町)に事務所を構えたが、わずか2年後の90(同23)年に廃業したと伝わる。恵悟さんは「士族の時計で今も残るのは、服部家のセイコーだけ。非常に高価で、一般の人は手が届かなかったのではないか」と推察する。

    ◇    ◇

 恵悟さんに、店の壁にかかる1台を見せてもらった。約20年前、九州の人から譲ってもらった物だ。「四ツ丸時計」や「だるま時計」と呼ばれる大小四つの丸が連なった造形で、米国イングラハム社の製品に酷似している。文字盤裏に機械類が内蔵されており、週に1回程度、ぜんまいを巻けば規則正しく動く。

 「構造は至ってシンプル。機械だけれど、手作業で作っているから部品にバリがあるなど、どこか温かみがある」と恵悟さん。「こういう産業がかつて姫路にあったと、大事に伝えていけたら」と話している。

■34年前にレプリカ登場 「和辻賞」正賞に

 播陽時計は、製作期間の短さ、史料の少なさから「幻の時計」と呼ばれてきたが、今から34年前、突如として脚光を浴びることになった。レプリカが製作されることになったのだ。

 姫路市制100年と、姫路出身の哲学者和辻哲郎の生誕100年が重なった1989年、「和辻哲郎文化賞」の受賞者に、現代の技術で復元した播陽時計が正賞として贈られることになった。

 現在も続く同賞には毎年おおむね2人の受賞者がいる。賞を所管する姫路文学館によると、生産元の製造中止で、2003年に正賞が変わるまでに三十数台が生産されたとみられる。このうち1台は同館の和辻コーナーに展示されている。

 実は、永浜時計店の壁にもオリジナルと並んでレプリカが1台かかっている。和辻賞に関わりがない恵悟さんの手に渡ったのは、全くの偶然だった。

 21年春、レプリカがネットオークションサイトに出品されていることに気付いた。興味はあったものの「自分が入札していいのか」と、一度はサイトを閉じた。1カ月たっても落札されておらず、悩んだ末にポケットマネーで購入。「ご本人の終活か、遺品処分か。詳しいことは分かりません」

 同店には、地元の歴史を学ぶために小学生が見学に来ることがある。その際にオリジナルと並べていると復元の話も分かりやすく、今は助かっているという。オリジナルと違い、ぜんまいを巻くのは月に1回程度でいいそうだ。

■姫路駅前の商店などで今もチクタク

 播陽時計は、永浜時計店や姫路市書写の里・美術工芸館(同市書写)のほか、姫路駅北側の商店街などでも見ることができる。

 3台を所有するのは、ヤマサ蒲鉾(かまぼこ)。「地元姫路にセイコー(1892年開始)よりも早く国産時計を製造した会社があったことを伝えたい」と、うち2点を大手前店(同市二階町)と、「御食事処 夢乃そば」(同市夢前町置本)に飾る。

 ヤマサ蒲鉾大手前店のすぐ近くにある茶舗「こばやし茶店」(同市二階町)も1台所有。1階入り口近くで時を刻んでいる。

 永浜時計店より3年早く1894(明治27)年に創業した「平野時計本店」(同)も、店頭に1台を展示している。

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