災害発生時に要救助者の捜索をサポートする災害救助犬の育成に、兵庫県姫路市夢前町護持の「西兵庫ドッグスクール」が取り組んでいる。手作りの訓練場で犬たちを指導し、競技大会でも結果を残す救助犬へと育ててきた。その秘訣（ひけつ）には、三つの「きょうせい」というキーワードがあるという。津田和幸代表（６８）と昨年春に加わったばかりの大庭美晴さん（２１）、救助犬の訓練を積む犬たちを取材した。

■要救助者のにおい、素早くかぎ分け

　今月８日、姫路城三の丸広場で開かれた姫路市消防局による出初め式。救助隊員が日頃鍛えた救助の腕前を披露する中、今年初めて、２頭の災害救助犬もともに会場を駆けた。

　いずれも津田さんらの指導を受けており、ハンドラーの指示に従い障害物を乗り越えたり、くぐり抜けたり。倒壊家屋を再現した課題では、要救助者のにおいを素早くかぎ分け大きくほえて場所を知らせていた。

　９歳になる雌のラブラドルレトリバー「アデラ」を連れて参加した大庭さんは「こんな経験は始めてだけど、ベテランのアデラに支えてもらって何とか競技を終えられた。１年近く一緒に訓練を続けてきた頼れる相棒です」と胸を張る。

■調教の意識変えた「海外との実力差」

　津田さんが犬の調教を学び始めたのは、姫路で会社勤めをしていた２６歳のとき。４年後、会社を辞め、飼い主の依頼で犬をしつけるドッグスクールを開いた。

　子どもの頃から好きだった犬に携わる仕事を始めたが、津田さんの意識を変えたのはフランス・パリでの光景。街を歩く１頭のシェパードの周りに飼い主らしき人が見当たらない。犬は、慣れた様子でマンションに入り、飼い主と自身が住む部屋に戻ったようだった。ペットにも行き届いた訓練の高さに驚いた。

　「海外との実力の差は広がる一方だ」。帰国後、より自由に訓練するため、夢前町内に拠点を移した。同県宍粟市山崎町で２階建ての倉庫を買い取り、たんすや机などを運び込んで、自作の訓練場を設置。約３０メートルのコースで、災害現場で必要な基本的な技術を室内で習得できるようにした。

　敷地内の山際に立つプレハブ小屋では、土が室内に流れ込んだ土砂災害の現場を再現。実際の環境に近い訓練施設にしたことで、災害救助犬が集う大会で最優秀に輝いた犬も育てた。

■一番大事なのは「共生」

　今月中旬、訓練施設を尋ねると、ハンドラーが救助犬を操りながら、会場に隠れた要救助者役を探し出す訓練を行っていた。あえて不安定に作った足場を慎重に進む１人と１頭に、津田さんからアドバイスの言葉が飛んだ。

　「調教には三つの『きょうせい』がある。無理やり犬に強いる『強制』に、犬の個性をねじ曲げる『矯正』ばかりではいけない。一番大事なのは、いかに『共生』するかということ」

　誤った指導で、救助犬としての未来を奪われた犬を何頭も見てきたという津田さん。「犬にも得意不得意、個性があり、訓練では正確に見極める必要がある」と伝えていた。

■姫路市の要請で災害現場へ派遣

　西兵庫ドッグスクールと姫路市消防局は来月も、同県三木市の県広域防災センターでがれきの山から要救助者を助ける訓練を実施するなど、連携を強めている。

　同市消防局は昨年、災害救助犬を認定する一般社団法人「ジャパンケネルクラブ」（ＪＫＣ、東京都）と連携協定を締結。災害発生時には、市の要請を受けた西兵庫ドッグスクールなど、同法人加盟の訓練所から救助犬が派遣される。

　日本国内で災害救助犬に注目が集まったのは阪神・淡路大震災。その後、同法人からは東日本大震災や熊本地震の現場にも派遣されて救助活動を手伝った。津田さんは「阪神・淡路大震災時、救助犬の仕組みが整っていればと悔やまれた。より高度な技術を習得し、いざというときに備えたい」と力を込めた。