■日本のスパやサウナに通じ
なぜ人は「お風呂」を愛し、癒やされ、魅了されるのだろうか。その謎に迫るのが、神戸市立博物館(同市中央区京町)で25日まで開催中の「テルマエ展-お風呂でつながる古代ローマと日本-」(神戸新聞社など主催)だ。テルマエは古代ローマ時代の公共浴場で、社交場でもあった。「日常の憂さを忘れ、自分の時間を持てる。それも安価で」と、展覧会の監修を務める東京大学文学部の芳賀京子教授(歴史学)は、その魅力を語る。
「当時は人口の急増で、食料危機が問題視されていた。人々の不満を解消すべく、娯楽を与え、帝政を維持する役割がテルマエにはあった」と芳賀さん。詩人が「パンとサーカス」と皮肉ったように、不安定な情勢から目を背けさせるのにも一役買ったようだ。
皇帝が造った巨大な浴場には、大理石彫刻が置かれ、床や壁、天井は豊かなモザイク画が施された。今回、展示されている「アポロとニンフへの奉納浮彫」(2世紀・ナポリ国立考古学博物館)など、ギリシア神話にまつわる神々の彫刻からは、テルマエが医療と直結し、神聖な場でもあったことが伝わる。
「病気治癒や健康への感謝の気持ちとして奉納されたのでしょう。祈りの場となっていた証しで、古今東西、風呂文化の根底には癒やしの力がある」と芳賀さんは見る。
働き者だったローマ人。オティウムという自由時間を大切にし、仕事を終えると風呂で疲れをとった。「テルマエに行けば都会にいながら非日常を楽しめる。今の日本のスパやサウナブームに通じるのかもしれません」
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古代ローマのテルマエと神戸をつなぐ、昨今の「お風呂」事情を伝える。(津田和納)