血行を促し、疲労回復やリラックスの効果も期待できるお風呂。人生100年時代において、入浴は介護リスクを低減させる「最高の健康法」とも言われる。その一方、ダイエットや冷え性の改善などを巡っては「誤った常識」もあるという。四半世紀にわたって研究を続ける「お風呂ドクター」の唱える正しいバスタイムとは-。(山岸洋介)
■要介護リスク3割減
「入浴は安くて気軽に、無理なく続けられる最高の健康法。その習慣がある日本は、健康面において世界的にも恵まれた国です」
そう語るのは、温泉療法専門医の早坂信哉・東京都市大学人間科学部教授(55)だ。これまで約4万人の入浴を医学的に調査し、お風呂や温泉、サウナが心身に及ぼす健康効果を解き明かしてきた。
早坂教授たちの調査によると、毎日湯船につかっている人は、週に0~2回しか湯船につからない人に比べて、新たに要介護になるリスクが約3割も減少。毎日入浴すると、うつ病の発症リスクも減少することが判明している。
■お風呂ではやせない?
しかし「お風呂は健康にいい」という考え方が浸透するのに伴って、根拠の乏しい情報が半ば「常識」として語られるようにもなってきた。
その代表格がダイエット関連の情報という。女性誌だけでなく、男性向けサイトでも「やせるには1時間くらい半身浴しよう」といった記事を見かけることがあるが、早坂教授は「お風呂ってそもそも、やせるものではないんです。直接のダイエット効果はありません」と指摘する。
「汗をいっぱいかくのでカロリー消費が大きいと誤解されますが、あれは脂肪燃焼ではなく、お湯の熱エネルギーで体温が上昇しているだけ。半身浴によるカロリー消費は全身浴の半分くらい。どちらにせよ軽い散歩と同じ程度なので、ダイエットには直結しません。寝ているだけよりはましですけど」
代謝の促進や疲労回復、痛みの緩和など「複合的な作用」によってダイエットにつながる可能性はあるが「お風呂に入ればやせる」という学術的なデータは「見当たらない」という。
■ほかほかが続く温度
もう一つの誤解が、冷え性への対応だ。
冷え性の人は熱めのお風呂に入りがちだが、早坂教授は「それは逆効果。誤った入浴法です」と説く。42度以上のお湯に入ると、温熱効果が長続きしないのだという。
人間の体には、温められすぎると発汗や血管拡張によって元の体温に戻そうとする働きがある。熱いお湯に入ると一時的に体温は1度~1・5度ほど上がるが「これは人体にとって異常事態。体が急速に熱を放出しようとするので、すぐに体温が下がってしまう」。
むしろ38~40度のぬるめのお湯に入る方が「ほかほかが続く」という。熱中症にならないよう、40度なら10~15分、38度なら20分くらいが適当とした。
■睡眠直前はNG
寝る直前の入浴も「実は良くない」という。
夜遅く帰宅する人や、温泉宿で「もう一回温まってから寝よう」という人にありがちだが、人は体温が下がることで眠気を感じるため「お風呂に入って体温が上がっていると、よく眠れないんです」。
寝る90分くらい前にお風呂から出ることで、布団に入るころにちょうど体温が下がってきて、寝付きがよくなるという。風呂上がりの時間を十分に取れない場合は「シャワーだけで済ませるのもいい。お風呂の効能はなくなるけど、睡眠も大切でしょう」。
早坂教授がおすすめする基本の入浴法は「40度で10分、全身浴」。上がった体温が長く保たれ、お風呂のさまざまな健康作用も発揮されやすいという。
早坂教授は「日本の入浴文化は世界的にも珍しい。正しくお風呂に入って、メリットを享受してほしい」と話した。
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【早坂信哉(はやさか・しんや)】 医師、博士(医学)。宮城県出身。自治医科大学医学部を卒業後、地域医療に従事。1998年、自治医科大大学院で入浴の研究を始める。温泉や入浴に関する学会や協会の理事を務め、入浴・銭湯検定のテキスト監修、温泉ソムリエ関連のセミナー指導も行う。2023年発売の『名医がやっている 正しいサウナの入り方』(宝島社)を監修。『おうち時間を快適に過ごす 入浴は究極の疲労回復術』(山と渓谷社)など著書多数。