DV問題に詳しい甲南女子大の友田尋子名誉教授=西宮市内

DV問題に詳しい甲南女子大の友田尋子名誉教授=西宮市内

 10月のテーマは、配偶者や交際相手からの暴力、ドメスティックバイオレンス(DV)です。DV問題に詳しい甲南女子大名誉教授の友田尋子さん=看護社会学=に聞きました。

 -2023年に、警察に寄せられたDVの相談件数は約8万8千件。過去最多でした。

 「暴力の被害を受けた人は、声が出せません。言葉を発したり、逃げたりできないほど、マインドコントロール(洗脳)されています。そして、自分が被害者だと気付かない場合もあります。気付いても、発信できないほど心身ともに弱っているんです」

 「暴力をふるわれたり、ののしられたり、性的に搾取されたりすることに対し、相手は『お前が無能だから』『お前ができへんから』と彼女たちに言い、さらに『お前のために、しつけの一環でやっている』などと言います。そうやって日常的に説教されたら、メンタルがやられてしまいます。自信がなくなり、自尊感情が落ちていき、他者とコミュニケーションをとるのもしんどくなる。2人の関係だけじゃなく、第三者との関係も崩れ、サイレントになります。それで、周囲から理解されない、ということが起きてしまいます」

 -周囲はどうすれば?

 「支援する側は、耳を澄ますだけではだめです。被害者が言葉を発せられるよう、まずは相手の事情を正しく理解する力が必要です。例えば、近所の人なら、怒鳴り声や様子が変わったことなどで気が付く。医療機関なら、けがの原因が『こけた』なのか『こかされた』なのかを考える。違和感を感じる感受性と知識がいります。相手を理解することで、声をかけることができます」

 -どんな声かけが?

 「興味本位ではなく、リスペクトした関係性が必要です。その上で『あなたのことをとても心配している』『大丈夫?』と声をかけます。まずは心配だけでもいい。何度も『気にしているよ』と伝えることで、オープンマインドになっていく人もいます」

 「(被害を打ち明けられたら)『つらかったね』『しんどかったね』と、相手の感情に寄り添い、一緒に嘆く。また『あなたは悪くない』『あなたが傷つくのは私がいや』などと伝えます。そうすることで、当事者が自分は被害者だと気付いたり、力がついたりし、さらには思いを言葉にできたり、動き出したりできる人がいるかもしれません」

 -最も伝えたいことは。

 「誰もが幸せに生きたい。命が大切。それをないがしろにするのは、あかんねん。そういうことです」

(聞き手・中島摩子)

 【被害者に伝えるとても大切なこと】

 「あなたは、1人ぼっちではない」

 「この被害は、あなたのせいではない」

 「助けが必要なら、助けることができる」

 「誰も、あなたをこんな目にあわせるべきではない」

 友田尋子さんの著書「暴力被害者と出会うあなたへ」(医学書院)より。