海上を飛ぶアホウドリ
海上を飛ぶアホウドリ

 研究者をしていると、調査という名目で通常訪れる機会がほぼないような珍しい場所に行けることがあります。私は昨年11月、アホウドリの調査をするために、彼らの繁殖地の無人島に三週間ほど滞在してきました。今回はその時の体験を紹介したいと思います。

 私が滞在した鳥島は小笠原諸島と八丈島の間に位置する直径2・7キロほどの小さな島です。無人島ですから、定期運行便のようなものはもちろんありません。八丈島で船をチャーターし、20時間以上船に揺られて向かいます。滞在中に必要な食料や備品はすべて自分たちで梱包(こんぽう)して運びます。生活に必要な水は雨水を使います。飲み水は手回しの浄水器を使って確保し、食事の準備など日常生活に必要な作業は滞在者の6人全員で協力して行いました。

 なぜそのような大変な所にわざわざ行くのかというと、全ては海鳥、特にアホウドリのためです。アホウドリは翼を広げると2メートルを超える大型の海鳥です。繁殖をしていない時期は沖合の海上で暮らしていますが、秋から春の繁殖期にはつがいで子育てをするために島でコロニーを形成して滞在します。

 明治時代に羽毛採取のために乱獲され、一時期は数百万羽いた個体数が数十羽にまで減ってしまいました。現在は山階鳥類研究所(千葉県我孫子市)の調査員らによる保護活動や個体数調査が行われています。その長年の努力のかいあって、鳥島での個体数は約8600羽にまで回復しました。しかしながら、繁殖地の安全性の確保や他の島での繁殖状況にはまだまだ課題があり、今後も継続的な調査が必要な状況です。

 私は前述の山階鳥類研究所の定期調査に同行させていただく形で鳥島に滞在しました。私が鳥島に来た目的は、アホウドリのダンスを撮影することです。アホウドリは繁殖期に雌雄でいろいろな動きやポーズを組み合わせたダンスを頻繁に交わします。非常にユニークで目立つ行動ですが、彼らが何のために踊るのかは実はまだよく分かっていません。これが理解できれば、どのような条件で繁殖がうまく進むのかヒントが得られると期待しています。

 初めての無人島滞在は自身の体力・準備不足など反省点が多かったですが、優秀で親切なベテラン調査員の皆さんの助けもあり、今後の研究に生かせるデータをたくさんとることができました。今は皆さんに早く研究成果をお届けできるよう、美しい島の景色を思い出しつつ、博物館のパソコンの前で解析に励んでいるところです。