デコトラに改造したはしご車で日本一周を達成した片岡憲彦さん=三木市
デコトラに改造したはしご車で日本一周を達成した片岡憲彦さん=三木市

 三木市の中古車輸出・販売会社取締役、片岡憲彦さん(53)が、日本で1台しかないという「デコトラはしご車」で47都道府県を巡り、日本一周を達成した。約1年8カ月で走破した約2万4千キロは出会いあり、笑いありの珍道中。まさかの映画出演まで果たしてしまった。片岡さんはきょうもデコトラはしご車に乗り、街行く人の注目を集めている。(小西隆久)

■ナンバー「119」

 片岡さんは2023年2月、中古車オークションで民間払い下げになっていた消防はしご車を購入。岐阜県高山市の消防署で使われていたはしご車で、全長約11メートル、総重量18トン。はしごは最長で高さ30メートル、ビルの11階部分まで届く。

 デコトラとは「デコレーショントラック」の略称で、電飾やメッキのパーツなどで装飾したトラック。片岡さんの会社では主にトラックを扱うことが多く「これをデコトラにしたら日本に1台しかない」と改造に着手した。

 車体やタイヤ回り、はしごを電飾で派手に飾り、デコトラ界の有名ブランド「トピー工業」のメッキホイールも装着。デコトラ特有のV8サウンドを出すために、ダブルマフラーに改良したが、走行時は通常のエンジン音にも切り替えられるようにした。ナンバープレートは「119」。

 うわさはたちまち広がり、23年5月に大阪であったデコトラのイベントに呼ばれた。大いに注目を集めた片岡さんは「どうせなら誰もやらないことを」と全都道府県巡りを始めた。

 道の駅などで駐車していると、いつも「これ本物ですか」と声をかけられ、走行中はすれ違うドライバーに敬礼されることも。存在感を買われ、神戸・メリケンパークで開かれた音楽イベント「神戸ストラット」などにも出演した。

■ファン20人出迎え

 旅では珍しい経験や多くの出会いも。静岡県(24年10月)では、富士スピードウェイを最高時速70キロで疾走し「血が騒いだ」。岩手県紫波町(24年8月)では出会った親子の誘いで保育園に出張し「目をきらきらさせる子どもたちに喜ばれた」。初上陸した北海道小樽市(24年7月)の小樽港では「ファン20人に出迎えられ、涙が出た」。

 とはいえ苦労は尽きない。「通常走行で震度4」(片岡さん)の振動があり、悪路だと天井で頭を打つため、クッション性の高いレース用のシートを取り付けた。高速道で1リットル当たり2・5キロの燃費や片道20万円のフェリー代といった経済的負担も大きいが、片岡さんは「この車で喜んでくれる人が大勢いる」と笑う。

■「新幹線大爆破」

 観光名所で愛車を撮影した写真や、走行する様子を撮影した動画をまめに交流サイト(SNS)に投稿していたら、気が付けばフォロワーが1万人を超えていた。それを見た関係者から声がかかり、動画配信大手ネットフリックス製作の映画「新幹線大爆破」に出演が決まった。

 撮影は埼玉県蓮田市であり、片岡さんのはしご車を含め40台以上の緊急車両が並び、エキストラ100人以上が集まった。片岡さんも消防士役で出演したが、「はしごを伸ばすときに親指を立てるという唯一の演技がカットされた」と苦笑する。

 千葉県で友人と計画したはしご車での魚釣りは「大の大人が大まじめにふざけたことをした」と振り返る。昨年12月、最後に訪れた沖縄県では、米軍キャンプにある消防署で庁舎から出動するシーンを撮影させてもらい、「みんなが『ワンダフル』って称賛してくれた」という。

 現在、日本2周目に突入した片岡さん。「訪ねた先で喜んでくれるのがうれしくてうれしくて。くせになっちゃいました」と舌を見せる。V8サウンドで駆ける派手な「相棒」との旅はまだまだ終わらない。