昨年12月に世界遺産登録30年を迎えた国宝姫路城(兵庫県姫路市)が、深刻な課題に直面している。「白鷺城」とも呼ばれ、美しい外観が高く評価される同城だが、その白さを特徴付ける漆喰の原材料の調達が近年難しくなっているという。伝統工法で修繕を手がける左官職人も減っており、姫路市内の業者は「材料と人、どちらが欠けても技術の継承は困難」と危機感を抱く。(上杉順子)
■4、5年前に入手できなくなった原材料も
国内の城郭建築の中でも姫路城の白さは特に際立つ。それは大天守をはじめ、櫓や土塀、屋根目地まで、建物外側の大部分を白漆喰で塗り固める意匠「白漆喰総塗籠造」による。
漆喰は、消石灰▽カキなどの貝殻を焼いた「貝灰」▽麻など繊維状材料の「苆」▽海藻の煮汁をこした「海藻のり」-が主原料。塗る場所や工程に合わせて、砂など数種類の材料を加えて練り上げる。
世界遺産は建造当時の姿を守る「真正性」の維持を求められるため、姫路市は姫路城の漆喰の材料を「可能な限り国産で賄いたい」と産地まで細かく指定し、左官業者が調達している。
だが昭和初期から姫路城の漆喰塗りを手がける山脇組(同市飯田)の山脇一夫社長(43)によると、海藻のりに使う北海道産の「クロギンナンソウ」は4、5年前に入手できなくなった。年間100~200キロを使っていたが、伝統的な漆喰の国内での使用量が減り、食用に加工する方が利益も大きいため、生産されなくなったという。現在は他産地の別の海藻で代用している。
漆喰を塗りやすくするために混ぜる貝灰も、かつては全国に数社あった製造業者は1社だけに。苆は以前から海外産の麻を国内で加工して使っている。
■「今が正念場」
需要低迷の背景には「インスタント漆喰」の台頭がある。姫路城で使われる漆喰は材料を調合して一から作るが、一般建築では20年ほど前から、水で練るだけの製品が主流になった。それに伴い、伝統的な漆喰作りから塗りまで一貫してできる左官職人もほとんどいなくなったという。
「姫路城だけでは使う漆喰の量は知れている。今後、材料の需要が高まることはないだろう」と山脇社長。「数年後にはギンナンソウ以外も手に入らなくなるかもしれない」と話す。このため同社は独自に材料の仕入れ先を開拓。砂は市内を流れる市川で採取する業者を見つけ、約2年前から取引を始めている。
山脇社長は「姫路城は日本の文化財修理のモデルケース。世界に誇る伝統技術を後世に残すためにも、今が正念場だ」と訴える。