被災地の課題や教訓などが法律家の手で整理された阪神・淡路大震災関連の民事訴訟記録が全て廃棄されていた。震災は6434人の犠牲者を出しただけでなく、住まいを再建し暮らしを立て直す難しさなど、社会のさまざまなひずみを浮き彫りにした。未曽有の災害が生んだ矛盾や対立、苦悩する被災者の声が詰まっていた神戸地裁の事件記録が失われていた。震災関連の司法記録はどのような意義を持っていたのか。
災害直後のライフライン維持に大きな課題を突きつけたのが、洲本市のアパートで起きたガス漏れ事故訴訟だった。親子4人が一酸化炭素中毒で亡くなった事故は、道路に埋設されたガス管の破断が原因とみられ、「不特定多数の安全を図るため、ガス管を閉じることを優先するかどうか」が争点の一つになった。
訴訟は和解で決着し、現在は和解調書などの文書が残るのみだ。原告側代理人の一人で、日弁連で災害復興支援委員長を務めた津久井進弁護士(兵庫県弁護士会)は「和解し、判例にならなかった事件記録の価値について、当時は認識が十分でなかった」と反省する。