報告書について説明する第三者調査委員会委員長の藤本久俊弁護士(左から3人目)ら=19日午後、兵庫県庁(撮影・風斗雅博)
報告書について説明する第三者調査委員会委員長の藤本久俊弁護士(左から3人目)ら=19日午後、兵庫県庁(撮影・風斗雅博)

 「極めて不当」「違法」-。兵庫県の斎藤元彦知事らへの告発文書問題を調べる第三者調査委員会が公表した報告書には、公益通報者保護を巡る姿勢やパワハラ疑惑について厳しい評価が並んだ。知事と一部幹部が同質化し、他の職員との分断が進んだと組織の問題にも言及。会見した藤本久俊委員長は「県政の停滞で被害を受けるのは県民」と組織風土の改善を求めた。

 「組織的な安全装置が働かなかったというべきだ」

 報告書を提出した後の19日午後、第三者委の弁護士6人全員が会見。藤本委員長が添付資料を含めて264ページに及ぶ報告書の内容を説明した。

 公益通報の取り扱いや斎藤知事のパワハラ疑惑を巡る共通の背景として指摘したのが、県の組織風土の問題だった。その一つに「コミュニケーションギャップ」を挙げた。

 報告書によると、斎藤知事が直接コミュニケーションを取る職員は、知事直轄の「新県政推進室」の一部に限られていった。知事を支えるこの主要メンバーは、休日・深夜を問わない過剰な要求にも応えようとし、理不尽な叱責や注意にも反論しなかったという。その過程で同じような価値観や物の見方にとらわれる「同質的な集団」と化し、組織の分断と自由闊達さの欠如を招いたと結論づけた。

 コミュニケーション不足に伴う職員との認識の齟齬が斎藤知事の中でいらだちを生み、自身への批判を冷静に受け止められなくなったと指摘。同質化した幹部らだけで告発文書の対応に当たったことで「公益通報として取り扱う発想は生まれようがなかった」とし、「拙速な反発的対応につながった」と判断した。

 斎藤知事は、公益通報者保護法違反の可能性が高いなどと指摘した県議会調査特別委員会(百条委員会)の報告書について、「違法の可能性があるということは逆に言えば適法の可能性もある」「パワハラに該当するかは司法が判断すること」などと反論した。

 第三者委の報告書は、こうした斎藤知事の発言について「正面から受け止める姿勢を示していない」と批判。組織のトップは自分とは違う見方もあるという複眼的な思考が不可欠とし、「組織の幹部は感情をコントロールし、特に公式の場では人を傷つける発言、事態を混乱させるような発言は慎むべきだ」と求めた。

 会見で藤本委員長は、県組織のあり方について、裁判官の経験を踏まえ、多様な意見を柔軟に取り入れることの大切さを強調。「正しかったらそれに従うのが民主主義の基礎。人の意見はよく聞く、吟味して考える。そして、違う方向に行くことを恐れないこと」などと提言した。(井上太郎)