東播磨のエースで4番の藤田大地。高校野球では投打両面で主力を担う選手が少なくない=神戸市須磨区弥栄台5、G7スタジアム神戸
東播磨のエースで4番の藤田大地。高校野球では投打両面で主力を担う選手が少なくない=神戸市須磨区弥栄台5、G7スタジアム神戸

 投手に代わって打撃専門の選手を起用できる指名打者(DH)制が来年から、高校野球に導入される。日本高校野球連盟は投手の健康対策などを理由に挙げ、急速に進む酷暑化などを受けた対策と強調。選手の出場機会確保にもつながるとしている。今秋の県や近畿大会はDH制導入前の最後の大会。参加校の監督に意見を求めると、さまざまな声が聞こえてきた。(伊田雄馬)

 DH制を巡っては、日本高野連が今年に入り、「7イニング制等高校野球の諸課題検討会議」で本格的に議論を開始。7イニング制やリプレー検証とともに、導入可否を話し合ってきた。

 「競技の根幹に関わる」と反対意見が強い7イニング制に比べ、DH制は米大リーグやパ・リーグで採用され、セ・リーグも2027年からの導入が決まった。大学球界でも検討されている。こうした状況を踏まえ、日本高野連は8月の理事会で来年からの導入を正式決定。公式戦では26年の春季都道府県大会、全国レベルでは同年の選抜大会から採用される。

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 現場では変化にどう備えているのか。今夏の甲子園大会で8強入りした東洋大姫路の岡田龍生監督は「打線の切れ目がなくなる。野球が変わる」とみる。夏の甲子園ではエース木下が9番打者として打席に立ったが、大会終盤には疲れから球威が落ちる場面が目立った。岡田監督は「投手を攻撃中に休ませられるのは大きい」と歓迎する。

 一方、チームにDHとして起用するほど打力の高い選手がいるとは限らず、公立校からは「選手層が厚い私立との差が拡大する」という懸念も聞かれる。「エースで4番」として投打の軸となっている選手も少なくない。

 21世紀枠で選抜大会出場経験のある東播磨は、14日の秋季兵庫県大会1回戦で4番の藤田大地投手が完投して勝利。福村順一監督は「藤田が先発するときは投手兼DHとして出場させ、降板後はDHとして残す」と、導入が予定される「大谷ルール」の活用を視野に入れる。

 その場合、エースが投げている間はDH枠を余らせることになる。「投手以外にDHを使いたい」と声を上げるのは、高砂の高木雄也監督だ。「守備だけで試合に出られれば、選手の可能性が広がる」とし、導入理由のひとつである「新たな活躍の機会創出」につながる側面を強調する。

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 DH制との向き合い方を決めかねている学校もある。今夏の兵庫大会16強の兵庫工では約2年前から「ノーサイン野球」に取り組み、選手が状況を自分で判断して戦略を練る。松岡亨監督は「打つだけの選手に試合全体の流れが読めるのか。利用しない選択肢もある」と思案を重ねる。

 甲子園を目指す強豪校は今後、DH制を前提にしたチームづくりを進めることになるが、堅守が伝統の育英・安田聖寛監督は「指名打者をつくることを目指したり、打撃のみに特化した練習をしたりすれば、乱雑な野球になってしまうかもしれない」と警戒。DHを使うかどうかはケース・バイ・ケースと強調する。

【大谷ルール】 「投手兼DH」として登録された先発投手が、降板後にDHとしてそのまま出場を続けることが可能となるルール。大谷翔平選手の投打二刀流の活躍を想定し、2022年に米大リーグで導入された。

■タイブレーク、球数制限、朝夕2部制…改革急ピッチ

 高校野球では選手の健康を考慮し、急激に改革が進む。甲子園大会では2018年には走者を置いた状態で延長戦を戦うタイブレーク制が取り入れられ、20年には「1週間500球」の投球数制限が導入された。

 近年の暑熱対策はさらに加速。夏の甲子園では一昨年に五回終了時の「クーリングタイム」、昨年には暑い時間帯を避ける「朝夕2部制」を相次いで導入。今夏には朝が恒例だった開会式が初めて夕方に開催された。

 対策が実を結び、今年の甲子園で選手に熱中症の症状が出たケースは昨年の58件から24件に半減。気温などの条件が毎年異なり、単純な比較はできないものの、日本高野連は「2部制の効果は一定あった」としている。