定年後の再雇用を巡り、仕事内容が同じにもかかわらず基本給が大幅に減ったことの妥当性が争われた訴訟で、最高裁は定年時の6割を下回る減額を違法とした一、二審判決を破棄し、差し戻した。
減額が不当かどうかは「事業所ごとに異なる基本給の性質や支給目的を踏まえて検討すべきだ」とした。今回の減額が妥当だったかについては結論を持ち越した。場合によっては不合理と見なされるとの指摘だ。
そもそも、企業側が「再雇用だから」といった安易な理由のみで基本給を著しく低くすることは容認しがたい。「同一労働同一賃金」の観点からも問題は大きい。
今後、企業側は基本給の趣旨や目的をはっきりさせ、説得力のある制度設計をする必要に迫られる。従業員への説明責任を負うということでもある。
人手不足が深刻化し、多くの企業で定年後のシニア人材の処遇改善が急務となっている。正社員との不合理な格差の是正は、再雇用者の意欲維持や業務の質の確保などに効果が期待される。企業にもプラスになるはずだ。誠実な対応を求めたい。
訴訟は2016年、名古屋市の自動車学校で教習指導員をしていた男性2人が起こした。仕事内容は変わらないのに、60歳の定年を境に月額18万円だった基本給が8万円前後と半分以下になった。
当時の労働契約法は、正社員と非正規労働者間の「不合理な待遇格差」を禁じており、原告が減額を不合理だと考えたのは、理解できる。
一審の名古屋地裁は、減額について「労働者の生活保障の観点からも看過しがたい水準」と断じた。定年時の基本給の6割を下回る部分について、支給分との差額を支払うよう学校に命じた。二審の名古屋高裁判決も支持していた。
だが、最高裁の判断は違った。再雇用された嘱託職員の基本給には、「正社員と異なる性質や目的があるとみるべき」として、一、二審判決はそれらの点が十分に審理されていないと結論付けた。裁判所が6割という目安を示すことへの疑問を投げかけたとも受け取れる。
正社員と再雇用者の処遇差を巡っては、過去に別の訴訟で賞与や各種手当などが争われた。最高裁は支給の性質や目的を個別に精査する必要があるとの考えを示した。今回、基本給についても同じ枠組みで検討すべきとの初の判断を下した。
最高裁は、再雇用者の待遇を考える際に労使交渉の結果や経緯を加味するよう求めた。定年延長や再雇用の動きが広がる中、安心して働ける条件整備に向け、労使が不断の努力を重ねることが不可欠だ。
























