人口減少と超高齢化が音を立てて進行する。事実を示す統計から目を背けたくなる。だが避けられない以上、向き合い、備えるしかない。

 29年前の阪神・淡路大震災は、ボランティアや市民活動の裾野を広げた。「自助」と「公助」に加えて「共助」の大切さを教えた。新型コロナウイルス禍でも、人々のつながりの重要性が再認識された。

 高齢化が進むにつれ、人間関係は希薄になり、自殺や孤独死を引き起こす。孤立を防ぎ、生きがいを持って暮らし、社会参加もできる支え合いの場が要る。地縁組織が細りつつある今、地域に根を下ろし、誰にも役割と居場所がある地道な市民活動への注目が高まっている。

 一人一人に何ができるか。居心地の良い社会をどう築いていくのか。身近な地域で答えを探したい。

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 国立社会保障・人口問題研究所が昨年末に公表した推計は、衝撃的な日本の近未来像を浮き彫りにした。総人口は2050年、20年比2146万人減の1億468万人となる。東京都を除く46道府県と、全市区町村の95・5%でマイナスになるという。兵庫県は20%超も減り、約435万人に落ち込む見通しだ。

 65歳以上の高齢化率は既に国民の3割近くに達している。地方の人口減少と高齢化が同時並行で加速度的に進む一方、東京への一極集中がより強まる。大半の自治体では、わずかな担い手で高齢者を見守り、支えねばならない。

 その担い手に期待されるのが、元気な高齢者たちだ。

 23年版「高齢社会白書」によると、「健康状態が良い」と答えた高齢者の割合は社会活動に「参加した」人で39・4%に上り、「参加していない」の21・9%を上回った。支え合う関係が定着すれば、健康や生きがいを生み出すのではないか。

■顔見知りを増やそう

 神戸市西区のNPO法人「コミュニティかりば」の歩みが、ヒントになる。14年3月の設立以来、買い物やごみ出し、庭仕事など地域の高齢者の生活サポート、空き店舗を活用した事務所での喫茶や手作り商品などの委託販売、太極拳といった健康増進事業を展開してきた。緩やかな見守りの場ともなっている。

 活動エリアの西区狩場台、糀台は1980年代に西神ニュータウンで最も早く開発された。現在の人口は約7100人とこの10年で1割減り、高齢化率は46%と2倍以上に上昇した。商業施設の活性化も課題だ。

 理事長の佐野正明さん(73)は元神戸市職員で、西神ニュータウンの開発に携わり自らも居を構えた。現役時代は仕事一筋だったが、定年退職後、衰退した地域の現実を目の当たりにする。「罪滅ぼしの気持ちで」と人脈や経験を生かし、高齢者らの居場所づくりに汗を流した。

 「気軽に集まり、顔見知りの関係を広げる場がいかに大切か。ここは私にとっても居場所です」と佐野さんは笑う。四季折々のイベントも企画し、幅広い年代の住民が集う。

 地域で暮らす者同士、互いを尊重し、幸福感を高める。その姿勢が信頼を得て、「できることをしたい」と申し出る住民も増えている。

■安心して年を重ねる

 退職して社会との結びつきが途切れた途端、行き場をなくし、自らの存在価値を見いだせず不安で立ち尽くす高齢者は少なくない。地域と関わりの乏しかった男性は、特に老後に孤立を深めるリスクが高い。

 神戸の認定NPO法人「コミュニティ・サポートセンター神戸」は、十数年前から「居場所」の担い手を育ててきた。神戸市内には常設の居場所が500カ所ほどあるという。中村順子理事長は「徒歩圏内で、困ったときに支え合える仲間をどれだけ増やせるか。共助がもっともっと行き渡らないと、災害時も乗り切れない」と危機感を語る。

 一人一人が地域との接点を持つ。行政や企業などとも協働し、地道に課題の解決に挑む。誰もが安心して年を重ねられる社会を築きたい。まず一歩を踏み出そう。