自民党はきのう、派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り、安倍派の衆院側、参院側でトップだった塩谷立、世耕弘成両氏に対し離党勧告を決めた。8段階ある処分で除名の次に重い。同派幹部を務めた下村博文、西村康稔両氏には離党勧告に次ぐ党員資格停止1年、高木毅氏は同6カ月など計39人を一斉処分した。
処分対象は、2022年までの5年間の政治資金収支報告書に500万円以上の不記載があった安倍、二階派の国会議員らだ。兵庫県関係では関芳弘、加田裕之、末松信介の各氏が2番目に軽い戒告となった。
組織的な裏金づくりの実態が解明されないまま下された処分は妥当なのか。軽重の「線引き」も曖昧だ。安倍派「5人衆」の松野博一、萩生田光一両氏は党役職停止1年となるが、既に政府や党の役職を退いており実効性は乏しい。
岸田派の会計責任者が立件されたが、岸田文雄首相は自身の処分を見送った。国会では「派閥全体での還付の不記載とは次元が違う」などと述べたが、保身ありきに聞こえる。自ら責任の取り方を示さなければ国民の理解は到底得られまい。
安倍派では22年の幹部会合で、会長だった安倍晋三元首相の意向でパーティー券収入の還流廃止を決めたものの、安倍氏の死去後に方針が翻った。国会の政治倫理審査会(政倫審)に出席した幹部らは不記載を知らなかったと弁明し、還流復活の経緯についても証言が食い違ったままだ。裏金づくりをいつ、誰が何のために始めたのかも判然としない。
疑問は何一つ解消されず、このまま幕引きを図るなど許されない。自民は野党が求める証人喚問に応じるべきだ。裏金化の経緯を知る立場にある同派会長を務めた森喜朗元首相の国会での聴取も欠かせない。
不記載額が3526万円と最も多く、派閥の会計責任者と自身の秘書が立件された二階俊博元幹事長は処分対象から外れた。執行部は次期衆院選に立候補しないと表明した点を踏まえたとするが、党の処分とは別の話だ。二階氏は政倫審に出席せず、最低限の説明責任も果たしていないことを忘れてはならない。
後半国会では政治資金規正法の改正が焦点となる。今月中にも衆院に政治改革を議論する特別委員会が設置される。首相は今国会で規正法を改正すると明言しているが、身内に甘い処分しかできない自民が、厳格化を主導できるかは疑わしい。
国会は真相究明の手を緩めず、政治資金パーティーの規制、会計責任者だけでなく議員も責任を負う「連座制」導入、使途公開義務のない政治活動費の在り方など実効性のある改革へ議論を急ぐ必要がある。