石破茂首相の所信表明演説に対する各党の代表質問が始まった。
首相交代後初めてで、「政権選択」となる衆院選前の国会論戦である。直面する政治課題に首相が具体的な処方箋を語り、野党が説得力のある対案を掲げられるかが問われた。だが首相は所信表明をなぞる答弁が多く、議論は深まらなかった。
首相は衆院選に向け、自民党派閥裏金事件で「党員資格停止」の処分を受けた議員らを公認しない方針を明らかにした。処分の有無にかかわらず、収支報告書に不記載があった議員は小選挙区と比例代表との重複立候補を認めない考えも示した。
総裁選では「裏金議員」の非公認の可能性に言及したが、党内の猛反発を受け発言は後退していた。首相就任後、裏金議員を「原則公認」とする方針が報じられると世論の反発が噴出した。首相が掲げる「国民の納得と共感」に程遠く、変節を指摘する声が高まった。迫る選挙への悪影響を恐れ、厳正な対応に踏み切ったとみられる。初志を貫く姿を国民は見たかったのではないか。
立憲民主党の野田佳彦代表は首相の対応に疑問を呈した。「大半が公認される。そもそも処分が大甘だ。国民の理解を得られない」と批判し実態解明へ再調査を迫った。企業・団体献金の禁止など改正政治資金規正法の抜本改革も要求した。
首相は「公平に判断し、再発防止に努めている。甘い処分で幕引きとは認識していない」と再調査を拒んだ。「政治とカネ」を巡る対応に国民の多くは納得しておらず、信頼回復のためにも再調査は不可欠だ。
改正政治資金規正法を「徹底順守する」と述べたが、それ自体が抜け穴だらけの欠陥法である。使途公開が不要の政策活動費について「将来的な廃止も」と言及したが、時期などを明確に答えるべきだ。
外交・安全保障政策では、首相が総裁選で力説したアジア版NATO(北大西洋条約機構)構想に質問が相次いだ。憲法との整合性が問われ、所信表明では封印しただけに追及を受けるのは当然だが、首相は「一朝一夕に実現するとは考えていない」と述べるにとどめた。持論の日米地位協定の改定も棚上げした。
目前の衆院選を意識して、実現が疑問視されたり党内でも見解が分かれたりする争点は極力避けようとしているように見えるが、これでは政権として何を目指すか分からない。
衆院はあす解散される。党首討論の時間はわずかに延長されるが、国民が投票するための判断材料を得るには十分ではない。27日の投開票に向け与野党はより具体的な政策や主張を競い合い、有権者に選択肢を示す努力を怠ってはならない。