きのうの特別国会で自民党の石破茂総裁が第103代首相に選ばれ、第2次石破内閣が発足した。閣僚は衆院選で落選した法相、農相と、公明党の代表に就任した国土交通相を交代させ、他の閣僚は続投させた。
与党の自民、公明両党は衆院選で過半数を割り込み、野党が多数を占める「宙づり国会」の状況となる。首相指名も30年ぶりの決選投票となった。与党だけでは予算案や法案を通せない。首相は数の力で押し通すこれまでの「自民1強政治」を反省し、謙虚な政権運営を通じて着実に政策を実行する必要がある。
与党過半数割れを受け、自公両党と議席を大きく伸ばした国民民主党が政策協議に入った。少数与党が政策を実現するために野党と話し合うことは否定しないが、政権維持を目的とする「数合わせ」ならば本末転倒だ。国民民主が是々非々を貫けるのか、有権者は注視している。
3党は月内に取りまとめる経済対策や2024年度補正予算案、25年度予算案、税制改正について協議するという。自民は国民民主の主張を反映させ、政策ごとに連携する「部分連合」を念頭に置いている。
国民民主が衆院選で掲げた、年収が103万円を超えると所得税がかかる「年収の壁」引き上げなどは有権者の一定の支持を得た。ただ主張通り実現すると、多額の税収減が見込まれるなど弊害も指摘される。経済対策や税制は暮らしに直結する。協議は慎重に進めるべきだ。
与野党伯仲の国会では、幅広い党派の意見や主張を取り入れることが欠かせない。衆院の委員長ポストも野党に手厚く配分された。政策決定過程で与野党の調整が必要になる局面は増えるだろう。躍進した野党第1党の立憲民主党をはじめ各党と真摯(しんし)に向き合うのが筋である。
本来、与野党が最優先で取り組むべき課題は「政治とカネ」を巡る抜本改革だ。衆院選での与党大敗は、自民が裏金問題を軽視し、実態解明や再発防止策を小手先で済ませたことに、民意が猛省を促した結果であることを忘れてはならない。
「抜け穴」が指摘される政治資金規正法の再改正、政策活動費の廃止、政治資金を監査する第三者機関の設置など課題は多い。立民などが掲げる企業・団体献金の禁止も議論が不可欠だ。与野党は速やかに実現への筋道をつけてもらいたい。
物価高対策をはじめ、人口減、財政再建、外交・安全保障など課題は山積する。求められるのは、国民の多様な声に耳を傾け、熟議を重ねて合意形成を図る努力だ。政治への信頼を取り戻すためにも、有権者の負託を受けた国会議員は「言論の府」の再生に尽くさねばならない。