係争地で起きたテロを発端に交戦が拡大していた隣国同士のインドとパキスタンが、即時停戦で合意した。トランプ米政権が仲介に乗り出していた。

 核保有国である両国に、国際社会は最大限の自制を求めてきた。報復がエスカレートすれば影響は南アジアにとどまらない。最悪の事態はひとまず回避できたが、対立の火種はくすぶる。両国政府には、緊張緩和へ向けた冷静な対話を求める。

 両国が長年にわたり領有権を争うカシミール地方のうち、インドが実効支配する地域で4月にテロが起き、観光客らが殺害された。インドはパキスタンが関与していると断定し、報復措置として5月7日、パキスタン領内の「テロ組織の拠点」を狙って空爆を始めた。

 パキスタンはテロへの関与を否定している。パキスタン軍によると、モスクなどの民間施設が攻撃を受け、子どもを含む30人以上が死亡したという。10日には反撃を開始し、インド軍のミサイル保管施設などを破壊したと主張する。

 両国の対立の根底には宗教の違いがある。ヒンズー教徒が大多数を占めるインドとイスラム教を国教とするパキスタンは、1947年に英領から分離独立して以来、衝突を繰り返してきた。カシミール地方の帰属問題は、過去3度の戦争の原因となった。この地方は中国も一部領有権を主張しており、「南アジアの火薬庫」と呼ばれる。

 ストックホルム国際平和研究所の推計では、核弾頭の保有数はインドが172発、パキスタンは170発に上る。米国はこれまでインドとパキスタン間の紛争の仲介役を担ってきた。しかし、トランプ大統領が国際協調に後ろ向きなため、攻撃の激化により核戦争のリスクが高まる懸念が指摘されていた。

 急転直下で停戦合意に至った背景には、ルビオ米国務長官らによる仲介があったとされる。

 ロシアとウクライナの停戦交渉が難航する中、トランプ政権にとって外交の成果としてアピールできる。中国と対抗する上でインドは重要なパートナーであり、パキスタンは米国の同盟国だ。事態の収拾は自国の利益にかなうとの判断だろう。今後、米国が紛争の解決に積極的に関与するかは不透明だ。

 今月5日に日本はインドと防衛相会談を開き、法の支配に基づき国際秩序の維持に貢献する姿勢をアピールしたところだった。パキスタンとも良好な関係を築いてきた。

 日本は国際社会と連携して両国に対話促進を働きかけ、インド太平洋地域の安定化に役割を果たすべきである。