高市早苗首相は所信表明演説で、国民の生活と産業を持続させ、立地競争力を高めるために「エネルギーの安定的で安価な供給が不可欠」と述べた。特に原子力、太陽電池などを活用したエネルギー国産化の重要性を訴え、「脱炭素電源を最大限活用する」と意欲を見せた。
石破前政権は今年、中長期の指針を示すエネルギー基本計画を約3年ぶりに改定した。二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を前提に、抑制的な原発政策を大きく転換し、その最大限活用を明確に掲げた。高市首相が述べたエネルギー政策は、この基本計画に沿ったものと言える。
計画では、発電量全体に占める原発の割合について、23年度実績の8・5%を40年度に2割程度まで引き上げるとした。首相はこれに向け、次世代革新炉や核融合炉の早期の実現を目指すとした。
しかし原発の新設には約20年かかり、建設費も1兆円規模に上るとされる。資金面の問題に加え、三菱重工業などが開発中の次世代型は未知数の部分が多く、実用化は容易には見通せない。首相は自らが描く稼働への道筋を丁寧に説明してほしい。
基本計画は、東京電力福島第1原発事故の反省を肝に銘じることがエネルギー政策の原点とする。同原発の廃炉では溶融核燃料(デブリ)の取り出しなどが難航している。周囲には帰還困難区域や除染土を保管する中間貯蔵施設が広がる。地元首長は新首相に対し、課題が山積する現状を理解してほしいと求めた。
重要なのは、原発への国民の不安が払拭されていない点だ。安倍・菅政権を通し、基本計画には「可能な限り原発依存度を低減する」と記してきた。だが岸田政権が原発回帰にかじを切り、石破政権でこの文言を削除した。政策転換への合意形成は十分とは言えない。高市政権は幅広い国民の声に耳を傾けるべきだ。
基本計画が40年度に4~5割程度に倍増させるとした再生可能エネルギーにも課題はある。切り札とされる洋上風力では、三菱商事が8月、コスト増で採算が合わないとの理由で三つの海域で進めていた事業から撤退した。大規模太陽光発電所(メガソーラー)も、環境破壊や景観悪化が各地で問題になっている。
高市首相は、折り曲げ可能なペロブスカイト太陽電池などの新しい技術に期待を示すが、どのような手法で普及を促進するのか。またCO2排出量の多い石炭火力をどのように減らすのか。カーボンニュートラルは地球温暖化防止に向かう国際社会への約束である。高市政権には脱炭素化への具体策を示す責務がある。
























