神戸新聞NEXT

 お金を配れば国民は満足するとでも考えているのか。そうとしか思えない「ばらまき」の羅列だ。

 高市内閣はきのう、物価高対策を主眼とする経済対策を閣議決定した。裏付けの補正予算案を臨時国会に提出し成立させる方針だが、総額は大型減税分も含め21・3兆円規模と当初予算の2割に近づき、新型コロナウイルス禍以降では最大となる。もはや「補正」の域を超えている。

 一度限りの給付はカンフル剤に過ぎず、物価高が生活に及ぼす影響を払拭できるとは考えにくい。高市早苗首相も参院の代表質問で、否定的な答弁をしていた。参院選から4カ月を過ぎようやく物価高対策が動き出したが、もっと効果的な手法はなかったか知恵を絞らねばならない。

 対策では、所得制限なしで18歳以下の子どもに「子育て応援手当」として1人2万円を支給するほか、電気・ガス代は一般家庭で計7千円相当の負担を減らす。自治体が自由に使える「重点支援地方交付金」に2兆円を計上し、「おこめ券」などの発行を促す。野党と合意したガソリン税の暫定税率廃止や、「年収103万円の壁」を引き上げるための基礎控除引き上げも加わる。

 物価高対策どころか、火に油を注がないか心配になる。コメの店頭価格は依然、高値水準にあるが、「おこめ券」が配られれば需要は減らないので価格低下は望み薄だ。暫定税率の撤廃でガソリン価格は値下がりが見込めるものの、自動車利用が増えれば値上がりを招き、税の引き下げ効果は薄まる。

 財源の大半は、国債を新たに発行して賄う。高市首相は「責任ある積極財政」を掲げるが、次代に果たすべき財政再建の責任は棚上げして、生活支援や経済成長を優先する意図が見える。

 当初、政府は17兆円規模の経済対策をまとめていたが、自民党内の議員連盟が25兆円規模への拡大を求め、子どもへの給付などを加えた。ただでさえ少数与党下の予算編成は、野党の賛同を得るために膨張圧力が高まりがちだ。与党もそれに乗じるのでは、1100兆円を超える国債が減少に転じることは見通せない。

 長期金利の指標となる新発10年もの国債の利回りは一時、2008年以来の高水準に上昇した。円はドルやユーロに対して値下がりが続き、高市政権が発足してから上昇基調にあった日経平均株価もきのうは前日比1198円の値下がりとなった。

 将来の財政への不安が金融市場に広がり「日本売り」を招いている。円安は輸入物価を押し上げてさらなる物価高をもたらし、国民生活を圧迫する。政府も与野党も、もっと危機感を抱く必要がある。