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 自民、日本維新の会両党が2026年度与党税制改正大綱を決めた。

 高市早苗自民党総裁は党税制調査会を刷新し、税制に通じたベテランが決定権を握る仕組みを変えた。首相として掲げる「強い経済」を、税制にも反映させる狙いがあった。

 だが実態は、野党の要求を丸のみした減税項目ばかりが目立つ。基盤が脆弱(ぜいじゃく)な政権下では今後も同じような展開が繰り返されかねない。巨額の負債を抱える財政の実態を、与野党は直視するべきだ。

 懸案の「年収の壁」問題では、所得税が生じる額を160万円から178万円に引き上げる。児童手当の給付拡大に伴い政府、自民で検討した扶養控除の縮小も見送る。自動車の取得時にかかる地方税「環境性能割」は撤廃する。

 いずれも、今夏の参院選で議席を伸ばした国民民主党の要求に対する満額回答だ。「年収の壁」では自民サイドの示す額と開きがあったが、首相自ら受け入れを決断した。衆院の与党会派は自維両党に加え無所属議員を取り込んだが過半数ぎりぎりにとどまり、国民民主を取り込む意図が透ける。

 すでに決定したガソリン税の暫定税率廃止や、高校教育の無償化には計2兆円以上の財源が要る。大綱には賃上げ促進税制の見直しなどを盛り込むが、1・2兆円にとどまる。不足分の穴埋めは27年度の税制改正に先送りされたが、自治体の財源にも影響するだけに、政府は責任を持って確保しなければならない。

 増税の印象を避けようといかに腐心しているかは、防衛力強化のため27年度から1%引き上げる所得税が如実に示す。東日本大震災に関連する復興特別所得税を1%下げるため負担は変わらないように見えるが、復興特別所得税の課税期間を10年延ばすので長期的には増税になる。

 政府は22年、5年間で必要な防衛費を43兆円と定め、財源として法人税や所得税などの引き上げを示した。しかし国民の反発を恐れ、所得税引き上げの時期だけは決められずにいた。今回の枠組みを短期的にとらえれば、増税なしで防衛力を強化できるとの誤ったメッセージになりかねず、防衛費膨張に歯止めが失われる懸念がある。

 「年収の壁」とされる基礎控除額の引き上げは所得が高くなるほど減税額が増える一方、所得税非課税の低所得者にはメリットが及ばない。野党の立憲民主党は、現金給付と税額控除を組み合わせる「給付付き税額控除」を提唱し、首相も総裁選で公約に掲げている。個々の税制の見直しにとどまらず、社会保障も含めた公平な負担の在り方を、与野党が連携して見いだすことが必要だ。